[社説]逆風下のEVは長期的な視点の戦略を
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2024/9/15 19:05
EVシフトを進めてきたフォルクスワーゲンは苦境に立たされている
世界的に電気自動車(EV)への逆風が強まっている。自動車大手でいち早くEV化路線を打ち出していた独フォルクスワーゲン(VW)は工場閉鎖も辞さないと表明した。トヨタ自動車もEVの販売計画を下方修正するという。
各社は目先の需要変動に柔軟に対応しつつ、長期的な視点で二酸化炭素(CO2)の排出をなくしていく戦略が求められる。
VWは2015年に発覚したディーゼルエンジンに関する不正を機に、EVを次世代車の柱とする戦略に転換した。だが、補助金の打ち切りや中国製EVの流入によって劣勢に立たされている。
2日にはドイツ国内での工場閉鎖も検討すると表明した。独工場を閉鎖することになれば、1937年の設立以来初めてとなる。独国内ではEV化を急ぎすぎたことが原因だとする批判が根強い。
EV戦略を見直すのはVWだけではない。スウェーデンのボルボ・カーと独メルセデス・ベンツグループも、30年に新車をすべてEVにするという方針を撤回した。米ゼネラル・モーターズ(GM)も新型EVの発売延期など計画の見直しを迫られている。
日本勢も例外ではない。トヨタは30年にEVの年間販売台数を350万台とする計画を掲げている。まずは26年に150万台としていたが、これを100万台に引き下げると伝わった。足元の日本市場ではEVの普及が進まず、現実的な修正と言える。
もともと石油から電気への転換は数十年がかりと目されていた。その途上で一時的に逆風が吹く事態は予想されたことだ。
目先の変調には柔軟な対応が求められる。当面は日本勢が強みを持つプラグインハイブリッド車も有効な選択肢となるだろう。
車の開発や生産に関わる計画は部品や素材など関連産業への影響が大きい。自動車大手は次世代車の戦略に関して、きめ細かな情報共有に腐心してもらいたい。
一方で、長い目でみれば、EVのような走行時にCO2を出さない車が求められる流れに変わりはあるまい。将来的にはトヨタが推進する燃料電池車も有力な手段となりうる。
EVへの逆風が問うのは、数十年単位の長期的な戦略だ。日本勢には100年に一度といわれるエネルギーシフトを着実に進め、次世代の自動車産業でもイニシアチブを取ってもらいたい