2020年秋以降に顕在化した全世界的な半導体不足。あらゆる製品に欠かせない半導体の供給が滞った結果、欲しい家電製品が手に入らないなど生活の中で影響を受けた方も多いのではないだろうか?半導体は我々の生活に溶け込んでいて、半導体がなくては社会インフラを維持できないと言っても過言ではない。DNPは1950年代から半導体関連事業に関わり、以来、半導体の進化に貢献してきた。そんなDNPが半導体の分野で目指す「より良い未来」とはどのようなものなのか。「すごいことって、だいたいちっちゃいところから始まるんです」と語るファインデバイス事業部の鈴木悠介に話を聞いた。
現在、ファインデバイス事業部でフォトマスクやナノインプリントといった半導体関連事業を推進する鈴木。1999年の入社以来、一貫して半導体に関わる業務に従事している。多くの人にとって「聞いたことがある」という程度の「半導体」という言葉について、鈴木はこう説明する。
“「導体」というのは電気を通すもの。逆に電気を通さないものを「不導体」と呼びます。簡単に言うと、半導体とはさまざまな条件によって「導体」と「不導体」が切り替わる特性を持つものですが、その性質を利用して作られたスイッチと回路の集合体が集積回路(IC)や大規模集積回路(LSI)であり、それらを慣用的に「半導体」と呼んでいます。(鈴木)”
スマートフォンのアプリをタッチすると立ち上がり、上方向にスワイプすると終了する。これらを制御しているのが「半導体」と考えると分かりやすいだろう。
以前は大型かつ高価だった半導体だが、技術の進歩によってサイズとコストのハードルは下がり、生活の至る所で便利さを加速させている。
“半導体をひと言で表現するなら「人間の生活を豊かにするもの」、そう断言できます。例えばドアを開ける際の指紋認証や顔認証によるスマートキーなども、優れた半導体がなければ実現していません。家電も同様で、半導体が進化しているからこそ、最近の蛍光灯はリモコンで光を調整できたり、色を変えたりできます。これらは明らかに昔と比べて便利になっている例だと思います。半導体技術の発展によって確実に世の中が変わっていく。それを自分の手触りとして感じられることが、たまらなく面白いです。”
DNPが半導体関連事業を本格的に開始したのは1959年のこと。
この年、製造用原版となる「フォトマスク」の試作に成功し、日本の高度経済成長期から現在に至るまで、各種電気製品の小型化・薄型化に貢献してきた。
光を通す部分と通さない部分で、微細かつ複雑な回路パターンを描き分けたガラスの板がフォトマスクだ。写真のネガのように、原版となるフォトマスクに光を照射することで、その下に置く半導体製品の土台となるシリコンウエハーに回路パターンを転写する。その後の工程で光を通した部分の絶縁膜を削ったり金属膜を埋め込むことで、ウエハー上に回路パターンが形成されるのだ。DNPが印刷プロセスで磨いた超微細なエッチング技術を応用・発展させたものがフォトマスクだが、半導体も光を使ってウエハー上に回路パターンを印刷して製造しているとも言える。
半導体は「こういう用途で使いたい」というニーズがあって、それに合わせて回路パターンを設計する。
DNPは1972年に、この設計=回路デザインのサポートもスタートしており、その後も半導体に関わる領域を広げていった。
現在、DNPが力を入れている製品の一つが世界最先端の露光手法である極端紫外線(EUV:Extreme UltraViolet)を使ったリソグラフィ向けのフォトマスク製造だ。半導体の高性能化には、パターンをより微細にしてLSIの密度を上げる必要がある。フォトマスクを用いる半導体製造プロセスでは、波長が短い光を照射するほど、パターンの微細化も進む。そこで、波長が13.5ナノメートル(nm:10億分の1メートル)と極端に短いEUVを用いるリソグラフィが期待されているのだ。その際はもちろん、この手法に対応可能なフォトマスクが不可欠となり、DNPの技術が活きてくる。
また、EUV関連の装置や材料等の事業に携わる人々にとっても、ハイレベルなEUVリソグラフィ用のフォトマスクは欠かせない。だからこそDNPは、この技術を占有するのではなく、国内外のパートナーとともに技術の深化と拡大、そして民主化を目指していく。
EUVリソグラフィ用フォトマスク
DNPはまた、一つの方式に限定することなく、さまざまなアプローチで技術の深化・拡大に挑戦してきた。今まで説明してきたフォトマスクを使った半導体製造プロセスとは異なる方式が、鈴木も携わる「ナノインプリントリソグラフィ」だ。
(DNPの企業広告「DNP×DNP」#02「DNPのナノインプリント技術」参照。)
基板上に塗布した樹脂に、回路パターンを形成したテンプレート(版)をハンコのように圧着させることで、超微細な凹凸のパターンを樹脂の上につくり出す。印影を刻むという意味の「インプリント」で、nm単位の回路パターンを作製するため「ナノインプリント」と呼んでいる。このプロセスで使う超微細な金型の設計から、それを使った製品の量産まで実現するこの技術。その原点は印刷技術を発展させたブラウン管製造用のシャドウマスクにある。
ナノインプリントリソグラフィのイメージ半導体製造のカーボンニュートラルを加速する「ナノインプリントリソグラフィ」
DNPのナノインプリント技術
“DNPが半導体関連事業を展開しているのは、印刷技術が基盤にあるからだと言えます。DNPは、本やポスターを印刷することで感動を伝えることをサポートしてきました。1950年代に進出したエレクトロニクス部門では、ブラウン管テレビに使うシャドウマスクや液晶ディスプレイ製造用のカラーフィルターなどを展開。現在はAR(拡張現実)のスマートグラス製造用モールド、そしてコントロール用半導体向けにもフォトマスクやリードフレーム等の製品を開発・供給しています。これらはすべて、文字や画像を紙に印刷する原版をつくる「写真製版技術」や「エッチング技術」*などの印刷技術が基盤となっています。こうした技術の広がりは、DNPが世の中の人々に提供してきた感動や価値の広がりそのものだと考えています。”
*写真製版は、文字や画像をレイアウトしたページを写真に撮り、そのフィルムを複製して、各色の印刷用原版を製造する技術。エッチングは、基材に塗布した材料を化学的に腐食させて除去し、微細で高品質な原版の製造する技術。