セブンイレブン、1日売上高で10万円勝っても「負のイメージ」
#日経ビジネス #コラム
2025/5/28 2:00
「社長になるに当たって最初にやりたいのは現場を元気にすることだ。なんとなく今は負のイメージがある」
セブン&アイ・ホールディングス(HD)は4月17日、国内コンビニエンスストア事業を担うセブン―イレブン・ジャパン(SEJ)の永松文彦社長が退任し、阿久津知洋執行役員が社長に昇格する人事を発表した。阿久津氏は同日の記者会見でこう表明した。
店舗数の上では頭打ちともいわれる国内コンビニ業界は約5万6000店の9割以上を上位3社が占める寡占市場だ。セブンイレブンがトップを走り、ローソンとファミリーマートが後を追う構図が続いている。
各社の実力を測る指標として使われるのが1店舗あたりの1日あたりの売上高を示す全店平均日販だ。2025年2月期についてはローソンが57万4000円、ファミマが57万3000円とする中、セブンイレブンは69万2000円。10万円以上という圧倒的な差を付けて「王者」の貫禄を見せつけた。
にもかかわらず、阿久津氏が危機感を強めるのはなぜだろうか。それは足元の勢いに目を移すと見えてくる。24年2月期と比べた全店平均日販の伸び率はローソンが3.2%増、ファミマが0.7%増だったのに対し、セブンイレブンは0.1%増でかろうじてプラス圏だった。
大きな原因の一つは、インフレによって消費者の節約志向が高まったのに「我々は低価格対応が半年ほど遅れてしまった」(永松氏)ことだろう。ただ、問題は業績だけにとどまらない。というのも最近、セブンイレブンはブランド力も落としているからだ。まさに阿久津氏が言う負のイメージがはびこっている。
日経BPコンサルティングは24年11月、ブランド価値調査「ブランド・ジャパン2025」を実施した。毎年行っており、企業名・グループ名・製品名・サービス名を合わせて1000ブランドを対象にして18歳以上の男女にネット上でアンケートを実施。約4万1000人から回答を得た。
ランキングでローソン、ファミマが前回から順位を伸ばす一方で、前回28位だったセブンイレブンは45位と順位を大きく落とした。コンビニ大手3社の中では、セブンイレブンは前回1位から今回は3位に転落。特に前回はローソン、ファミマを上回っていた「革新性」の項目が悪化した。
コンビニにATMを置くセブン銀行や、プライベートブランド(PB)「セブンプレミアム」、店頭で抽出する「セブンカフェ」といった新たな商品・サービスを展開して業界をけん引してきたセブンイレブン。今も、出来たて商品の提供や、店舗の商品を配送する「7NOW(セブンナウ)」などに注力するものの、阿久津氏は「かつて提供してきた『開いててよかった』や『近くて便利』に代わる価値の提供がまだまだ不十分だ」と見る。
セブン―イレブン・ジャパン新社長の阿久津知洋氏は「後ろ向きとまでは言わないが、なんとなく今は負のイメージがある」と危機感を示した
一方のローソンとファミマはどうか。ローソンは生活雑貨「無印良品」を本格展開したり炊きたてのご飯などを提供する「まちかど厨房」の導入店を拡大したりしてきたほか、24年8月には三菱商事・KDDIの折半出資体制に移行して脚光を浴びた。ファミマもリテールメディア(小売り広告)や、衣料品PB「コンビニエンスウェア」の展開を進めている。
日経BPコンサルティングで調査を担当した石原和仁氏は「革新的な商品やサービスを開発できておらず、セブンイレブンらしさが失われている。物価上昇に対する対応が悪かったり、(弁当の底を上げて量を減らしたのではないかという)『上げ底疑惑』があったりでネガティブな印象も与えてしまった」と指摘する。
また、セブン&アイはこれまで祖業のイトーヨーカ堂の経営不振や、23年に売却したそごう・西武を巡る騒動に耳目が集まったほか、足元でも、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)からの買収提案にどう対応するかが注目されがちだ。あるセブン&アイ関係者は「新商品や新サービスといった前向きなニュースを出しても他の話題にかき消されてしまう」と嘆く。
こうした難しい状況の中、SEJ社長として白羽の矢が立ったのが阿久津氏だ。会社人生の大半を加盟店オーナーの経営相談などを担う部署で過ごし、23年に執行役員に就任したばかり。前任の永松氏は62歳で社長に就任したが、阿久津氏は54歳とかなりの若返りになる。「私だけでなく、新任の取締役も同年代で固められている。前向きな挑戦をしていくという意思の表れだ」(阿久津氏)という。
セブンイレブンの生みの親であり、セブン&アイ名誉顧問を務める鈴木敏文氏は著書や取材などで「挑戦」の重要性を何度も説く。阿久津氏も「社員を元気にして挑戦しようという意欲をかき立てる。そうすれば加盟店も元気になり、お客様にも『セブンは元気がいい』と伝わる」と力を込める。王者として業界を引っ張ってきた挑戦力と発想力を取り戻し、「なんとなく負のイメージ」をぶち壊せるかが鍵になる。
(日経ビジネス 高城裕太)
[日経ビジネス電子版 2025年4月28日の記事を再