[社説]免疫の常識を覆した坂口氏にノーベル賞
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2025/10/6 20:50
ノーベル生理学・医学賞の受賞が決まり、記者会見する大阪大学の坂口志文特任教授(6日、大阪府吹田市)
2025年のノーベル生理学・医学賞に大阪大学の坂口志文特任教授ら3人の共同受賞が決まった。免疫反応の暴走を防ぐしくみを突き止めた。1型糖尿病など自己免疫疾患の治療につながる功績が評価された。
一連の研究によって、免疫の力を操り、自らの体にできたがんの治療も期待できるかもしれない。数々の希望をもたらす研究は「人類への貢献」に贈るノーベル賞にふさわしい偉業といえよう。
日本からのノーベル賞は、24年の平和賞に輝いた日本原水爆被害者団体協議会に続く2年連続の快挙だ。自然科学3賞では21年に物理学賞を受賞した真鍋淑郎さん以来となる。
免疫は病原体のような外敵から体を守るが、時として自らの体を傷つける。バランスを保つうえで、坂口さんは過剰な免疫反応を抑える働きをする細胞「制御性T細胞」の存在を早くから提唱した。
新しい着眼点は1980年代当時の免疫学からすれば異端だった。米国で過ごした10年弱の研究生活でも懐疑的な目を向けられた。転機になったのは、細胞の存在を証明した90年代後半以降だ。この細胞の発生や機能を担う原理を2000年代に解明して常識を覆したといえる。
受賞に結実したのは、優れた洞察力に基づく信念で地道に検証した努力の結果だ。周囲の声を恐れず、道なき道を切り開いた不屈の精神に敬意を表したい。
受賞決定は、国家の枠を超えて学ぶ大切さを再認識できた面でも意義深い。坂口さんの研究生活を早い時期に支えたのは米国だ。ノーベル賞を機に、互いの知を共有する国際協調の尊さに改めて思いを巡らせたい。
米国はトランプ政権の誕生をきっかけに、自国第一主義が台頭した。内向き志向を強め、科学者ら人材の往来を自ら妨げる。疾病対策など各国が抱える難題は、人材交流で培う知があってこそ解決に近づくと理解すべきだろう。
科学技術力が低下する日本では、グローバルな競争で生き残るため、企業だけでなく、大学も目先の実利を追う研究に力を入れるようになった。「すぐに役立つか」ばかりが問われ、自由な発想を花開かせる機運がしぼみつつある。
国の競争力を高める意識とともに、好奇心から芽生えた基礎研究が革新の礎を築くというもう一つの原則も忘れてはならない。