バンブーズブログ

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[社説]そごう・西武ストが投じたM&Aの課題


 
 
#社説 #オピニオン
2023/9/2 2:00
 
臨時休業した西武池袋本店前でストをアピールするそごう・西武労働組合の組合員(8月31日、東京都豊島区)
そごう・西武労働組合西武池袋本店(東京・豊島)でストライキを決行した。親会社のセブン&アイ・ホールディングスは1日、労使の対立が続く状況のまま、そごう・西武の売却に踏み切るなど異例の展開となった。

雇用維持と事業継続に関する労使の話し合いが不調に終わり、買い物を楽しむ消費者や取引先を巻き込む残念な結果になった。M&A(合併・買収)を巡り、株主以外のステークホルダー(利害関係者)に対し、これまで以上に丁寧な説明責任を果たすことが欠かせないことを示したといえる。

セブンはコンビニエンスストア事業へ投資を集中するため、2022年11月に米投資ファンドフォートレス・インベストメント・グループそごう・西武を売却することで合意した。23年2月完了の予定だったが、元社員らの訴訟が相次ぎ延期を繰り返していた。

セブンがそごう・西武を買収したのは06年。消費者が利用しやすいグループを目指したのが理由だ。しかしリストラが中心で成長させることはできなかった。このためフォートレスと事業パートナーであるヨドバシホールディングスに任せた方が百貨店にとっても最善策と判断した。今後の戦略を考えると売却は間違っていない。

しかしその後の反発は全く想定できていなかった。地元の豊島区長や池袋本店の不動産の一部を保有する西武ホールディングスが街の多様性が失われることに懸念を示した。百貨店事業は街の顔でもあり、住民にとっての価値は大きい。事前の説明などが足りず、批判を高めてしまった。

社員への配慮も不足していた。確かにそごう・西武は財務基盤が脆弱で、セブンの信用力がこれまでの事業継続を可能にした。しかし百貨店市場が縮小し、旗艦店の池袋本店が縮むことへ社員は危機感を高め、スト決行の事態を招いた。組合側も売却そのものに反対しているわけではない。早期に社員に丁寧な説明をしていれば、状況は違っていたかもしれない。

今後も小売業に限らずM&Aは増えるだろう。日本企業が活力を高めるうえでM&Aは重要な経営の選択肢であり、経済全体の活性化にもつながる。事業再編を円滑に進めるためには、人的資産やステークホルダーへの配慮が企業価値の向上に欠かせないことを改めて肝に銘じる必要がある。そごう・西武のストを教訓にしたい。