バンブーズブログ

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都心オフィス空室率10年ぶり高水準、賃料3年で3割低下も


 
 
#住建・不動産 #ビジネス #サービス・食品
2023/9/7 5:00
 
「麻布台ヒルズ」では手前の低層階や左奥の超高層ビル「麻布台ヒルズ森JPタワー」が6月末に竣工した
【この記事のポイント】
・東京都心5区のオフィス空室率は7月時点で6.46%
・在宅と出社の両立を目指し、オフィス集約を進める動きが背景に
・空室率の上昇が続けば、賃料の下落が進む予測もある
東京都心のオフィスビルの需要が鈍っている。大型ビルの開業が相次ぐ一方、在宅勤務の定着や外資系企業の事業見直しなどで空室率は6%超と10年ぶりの高水準に迫っている。賃料が3年前より約3割下がった地域もある。中小を中心に不動産業には厳しい状況となる一方、スタートアップにとっては都心部に入居しやすい状況になっている。

オフィス仲介の三鬼商事(東京・中央)によると東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)のオフィス空室率は7月時点で6.46%。供給過剰の目安とされる5%を30カ月連続で上回った。大阪は4.6%、名古屋は5.5%と、他地域もコロナ前水準を超えて推移する。

「満床で開業できたのは奇跡的だ」

ある不動産会社幹部は、3月に開業した三井不動産の「東京ミッドタウン八重洲」(東京・中央)について語る。2023年は森ビルの「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」(同・港)と「麻布台ヒルズ」(同)など大型ビルのオフィスが大量供給される上、需要が弱含んでおり、テナント獲得に苦戦が予想されているからだ。

森トラストの調査によると、23区内で延べ床面積1万平方メートル以上のオフィスビル供給は面積ベースで23年に前年比2.7倍の130万平方メートルと3年ぶりの高水準に達する見通し。25年はさらに141万平方メートルの供給が予定される。

「22年と比べて企業がオフィスを探す勢いが弱まっている」。不動産サービス大手のコリアーズ・インターナショナル・ジャパン(東京・千代田)の川井康平リサーチディレクター&ヘッドは需要の弱さを指摘する。

 
背景に在宅勤務の一定程度の定着がある。東京都調査によると、都内企業のテレワーク実施率は7月で45%を超える。6割を超えたピーク時よりは下がったが、コロナ拡大前の20年3月(24%)を大きく上回る。

大手企業は出社と在宅を両立できるようにオフィス集約を進めている。

住設機器大手のLIXILも22年11月に本社を移転。席を固定しないフリーアドレス制を採用して、オフィス面積を9割弱減らした。NTTは22年7月、社員の勤務場所を自宅を原則とし、テレワーク拡大にあわせて都市部を中心にオフィスの集約を進めてきた。

都心のオフィス需要を支えてきた外資系企業の勢いも鈍い。デロイトトーマツグループは21年にオフィスを縮小。米IT大手は米国内外で人員削減を相次ぎ進める。「日本でも入居予定を見直したりオフィス規模を縮小したりしている」(三幸エステートの今関豊和チーフアナリスト)

需要が構造的に変化する中、不動産大手は入居企業集めに知恵を絞る。

森ビルは麻布台ヒルズでインターナショナルスクールや予防医療施設を入れることで、外資系や弁護士・会計士事務所、コンサルティングの呼び込みに成功した。

三菱地所三井不動産はフロアを小規模に区分けし、短期契約を可能にした。家具や設備を用意して入退去をしやすくし、スタートアップや大企業の新規事業の担当部門を誘致する。

 
大手不動産による大規模オフィスの新規供給で中小ビルの需要が奪われている側面もある。コリアーズ・インターナショナル・ジャパンによると、中小オフィスの多い品川・港南エリアの4〜6月の平均賃料は1坪(3.3平方メートル)あたり2万4800円と3年前に比べて1万円ほど下落した。テナント確保のために値下げも続いている。業界関係者は「都心部でも駅から徒歩10分程度で中小のオフィスビルは入居企業の減少が進む」と指摘する。

一方で賃料低下に伴い、これまで都心部にオフィスを構えにくかったスタートアップにとっては、都心部に移転するきっかけにもなる。

東京商工リサーチによると不動産業は6月まで8カ月連続で倒産件数が前年同月を上回って推移した。三鬼商事と日本不動産研究所は、27年に都心5区空室率は7.2%まで悪化すると予測する。今後も空室率の上昇が続き賃料の下落が進めば、中小を中心に淘汰が進む可能性がある。淘汰が進めば、体力に勝る大手に優良な物件とテナントが集中することになる。

空室率が日本より高い米国ではオフィスを住居にする動きも起きている。日本でもさらに空室率が上昇すると同様の動きがでる可能性がある。

(橋本剛志、山口和輝)