#NISA #社説
2023/11/6 2:00
スマホや店舗など個人の資産運用の入り口は多様化している
2024年から新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まるのを前に、証券会社が日本株の売買委託手数料を無料にしたり、助言や情報提供を強化したりする動きが強まっている。短期の利益追求だけでなく、資産形成に役立つサービスの競争が広がっていくことを期待する。
若年層を中心に個人投資家と接点が大きいネット証券では、SBI証券などが日本株手数料をゼロにした。自己責任に基づきある程度の頻度で売買したい個人には恩恵があるだろう。
「ゼロ手数料」が先行して始まった米国は、個人の注文を専門業者に回して報酬を受け取る場合が多い。こうした報酬形態がない日本でゼロ化戦略が加速すれば、経営体力をすり減らすネット証券が現れ、業界再編も考えられる。すでに基盤が強く多様な収益源を持つ証券会社にとっては、有力な攻めの選択肢となろう。
マネックスグループは事実上、傘下証券の株式の半分をNTTドコモに売却し、その資金を資産運用会社などの買収にあてる。手数料ゼロ化と一線を画し、サービスの幅を広げることにより個人投資家を引きつける戦略だ。
コスト引き下げやサービス拡充など、証券会社が横並びに走らず多様な競争をすることは健全な姿だ。「貯蓄から投資へ」の流れを太くするためにも、さらに知恵を絞ってほしい。
例えば企業の発掘だ。成長性が高いのに情報発信が少ないなどの理由で、見過ごされている中堅企業は少なくない。こうした企業の調査や投資家向け広報(IR)支援などをすれば、個人に投資対象を紹介できる。株式市場の活性化にもつながる。
自社のホームページで資本市場や経済の基礎を解説している証券会社は少なくない。金融リテラシーの向上は証券会社の戦略として有効であるばかりか、社会的な責務ともいえる。
野村や大和といった大手証券グループの23年4〜9月期決算は、株高にも助けられて個人向け営業が好調だった。総合証券が得意とする助言業務は、相場の先行きが不透明な今こそ真価が問われることになる。
銀行に預ければお金の価値が高まるデフレ経済から脱しつつある今、個人は資産形成を真剣に考え始めた。証券会社は特色と専門性を競うときだ。