宝塚俳優死亡、パワハラ14件認める 幹部ら遺族に謝罪
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2024/3/28 15:01 (2024/3/28 21:11 更新)
記者会見で謝罪する阪急阪神HDの嶋田泰夫社長(中)=28日、大阪府豊中市
宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)の俳優の女性が死亡した問題で、歌劇団を運営する阪急電鉄の親会社、阪急阪神ホールディングス(HD)は28日、上級生らによるパワーハラスメントがあったことを認める合意書を遺族側と交わした。大阪府内で記者会見を開き、明らかにした。
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記者会見には嶋田泰夫社長や歌劇団の村上浩爾理事長らが出席。遺族側との協議の中で14件のハラスメントを全て認め、同社の角和夫会長らが同日、遺族に直接謝罪したなどと説明した。
嶋田氏は冒頭、亡くなった女性に哀悼の意を表したうえで「ご遺族の心情を思うと、取り返しのつかないことをして申し開きできない」と謝罪した。
問題を巡っては、歌劇団は当初、2023年11月に公表した調査報告書で、上級生らによるいじめやパワハラは確認できなかったと主張していた。これに対し遺族側は複数のパワハラ行為があったと反論。双方が協議を続けていた。
阪急側はこの日の記者会見で、女性の髪をヘアアイロンで無理やり巻きやけどを負わせた▽人格否定のような言葉を浴びせた▽深夜帯に指導・叱責し帰宅できない状況になった――など、上級生や劇団幹部らによる14項目のハラスメントがあったと認め、遺族側と合意書を締結したと明らかにした。「悪意があったとまでは言えないが、行き過ぎた行為はパワハラに該当する」とした。
ハラスメントが起きた背景や、具体的な言葉と解釈には遺族側と一致していない点があったとも説明。女性の死亡については「原因を一つに特定するのは難しい」としつつ、過密な公演スケジュールによる負担やパワハラ行為などが「大きな理由だと考えている」と述べた。
長時間労働やパワハラを放置して俳優に時代に合わせた教育をせず、組織風土を変えなかったことは「怠慢だった」と歌劇団の過失を認めた。
合意書には、阪急側が「健康な職場を作るために全力を尽くす」ことを誓約するとともに、遺族側に慰謝料を支払うことなども盛り込まれた。
再発防止策の一環として、弁護士ら外部有識者でつくる諮問委員会の設置も公表。歌劇団の改革について助言を受ける。
遺族側代理人の川人博弁護士らも同日、都内で記者会見。「歌劇団側が明確に多数のパワハラの存在を認め、遺族に謝罪したことの意義は大きい。あしき伝統を見直す第一歩」と評価した。
宝塚歌劇団の女性俳優急死問題で、記者会見する遺族側代理人の川人博弁護士(左)ら(28日)=共同
これまでに6人の上級生らが個人として、遺族に謝罪文を出したことも明らかにした。同弁護士は少なくとも10人がパワハラに関わっていたとの見方を示した。
女性の母親は代理人を通じて発表した声明で「言い表せないたくさんの複雑な思いがある」とコメントした。「娘の尊厳を守りたい一心」で事実を訴え続けてきたと振り返り「娘に会いたい。生きていてほしかった」と心境を明かした。
合意書締結に至るまで、双方の話し合いは約4カ月に及び、女性の死去から約半年を要した。この間、歌劇団の本公演の4割が取りやめとなり、女性が所属した宙組の公演再開はまだ実現していない。
後手に回り続けた歌劇団側の対応について、企業不祥事に詳しい遠藤元一弁護士は「問題を過小評価し、後から重大な事実を認めざるを得なくなるという、日本で繰り返されてきた危機管理の失敗パターンをなぞった」と指摘する。
歌劇団側が調査報告書の内容から一転してパワハラを認定した経緯も不透明だとし「第三者による原因分析を詳細に行い、再発防止に目を光らせ続ける必要がある」と話している。