[社説]年金は甘い見通しに頼らず改革進めよ
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2024/7/3 19:05
厚生労働省は年金の財政検証結果を社会保障審議会年金部会に報告した(3日、東京都内)=共同
この内容をもって制度改革の必要性が低下したと考えるのは間違いだ。厚生労働省が公表した年金財政の検証結果のことである。
年金の財政検証は2004年の年金改革法によって原則5年に1度の実施が義務付けられている。厚生年金・国民年金の超長期の年金給付水準を推計し、老後保障の将来像を示す重要な作業だ。
今回の検証は19年の前回検証に比べて将来の年金水準が底上げされる結果となった。女性や高齢者の労働参加が進んだほか、株高を背景に積立金の運用も好調で年金財政が改善したためだ。
夫が会社員、妻が専業主婦だった高齢夫婦をモデル世帯に、4通りの経済シナリオを置いて年金の給付水準を推計した。年金の水準は、男性会社員の平均手取り所得に対する世帯の年金額の比率を所得代替率として示している。
それによると、最も悪い経済を想定した「1人当たりゼロ成長ケース」を除いた3通りのケースで所得代替率が将来にわたって政府目標の50%を上回るという。
前回検証は6通りの経済シナリオの半数で所得代替率が50%を割る厳しい結果だった。前提の置き方が異なるとはいえ、5年で年金の状況が改善したのは確かだ。
最も寄与したのは労働参加の拡大である。共働きが広がったほか報酬比例部分がある厚生年金が適用されるパートタイム労働の女性が増えた。60歳以降に会社員として保険料を納めながら働く動きも広がり、年金制度を支え、老後に備える力が強まった。厚生年金の加入者を増やす改革の有効性を強く認識させられる内容だ。
ただし、まだ万全な制度にはほど遠い。労働参加の拡大や株高が今後も続く保証はない。何より今回の検証は出生率の長期予測を中位推計で1.36としており、23年に1.20まで急落した足元の出生動向とかい離し、甘さがある。
厚労省は今回の検証を踏まえ、基礎年金の保険料納付期間を5年延長して45年間とする改革は見送る方針だが、あまりに楽観的ではないか。負担増への国民の反発を恐れて易(やす)きに流れ、改革を先送りするのなら問題だ。
年金の最低保障機能が弱いという積年の課題は放置され、少子高齢化対策として04年改革で導入した給付抑制措置を物価低迷時に発動しない欠陥もある。政権は国民に痛みを求める改革から逃げずに年金の持続力を高めるべきだ。