[社説]国境画定で中央アジア安定を
中央アジアのキルギスとタジキスタンが1千キロメートル近い全国境の画定作業を終えた。中国とロシアに挟まれた重要な地域の安全保障が大きく前進する。鉱物資源も豊富に埋蔵する中央アジアの安定と発展につなげてもらいたい。
両国の国境画定作業はソ連崩壊に伴う国家独立から30年以上かかり、12月4日に事実上、決着した。キルギス政府幹部は「歴史的な瞬間」を迎えていると述べ、合意文書の作成や批准など最終的な法的手続きを急ぐ方針を示した。
画定作業が加速したのはキルギス南部の国境地域で2021年と22年、住民や軍同士の大規模な衝突で多数の死傷者が出たためだ。キルギス人とタジク人の集落が混在する雑居地域で、水や土地を巡る争いが頻発した。戦争に発展する危機感を他の中央アジア3カ国も共有し、交渉を後押しした。
国境画定の効果は両国関係の改善だけではない。地域全体の安定や民主化、地域統合、経済の発展につなげるべきだ。その結果、中ロの影響下にある中央アジア5カ国の独立の基盤も強化される。
周辺地域への波及効果もある。紛争を再燃させたアゼルバイジャンとアルメニアには、国境画定作業の加速と平和条約の締結を促すだろう。イスラム主義組織タリバンが支配するアフガニスタン情勢の安定に資する可能性もある。
ウクライナ侵略が始まって以降、米国や欧州はロシアの勢力後退の隙を突いて中央アジア5カ国と相次ぎ首脳会議を開いた。
古来「シルクロード(絹の道)」と呼ぶ東西交易路が通った中央アジアはいま、ロシアを迂回しアジアと欧州を結ぶ国際輸送ルートで注目される。価格が上昇するレアメタル(希少金属)や石油など鉱物資源の供給源でもある。
日本は8月に岸田文雄首相(当時)が親日的でもある中央アジアを訪れる計画だったが、南海トラフ地震臨時情報の発表で急きょとりやめた。国境画定で安定と発展に踏み出そうとする中央アジアを支え、協力拡大を急いでほしい。