バンブーズブログ

社会の大きな流れは新聞のトップニュースに掲載されます。 その情報を読み続けていくと数年先が見えてきます。それは怖いものなしです。

[社説]植田日銀は柔軟な政策と明快な対話磨け


 
 
#社説 #植田和男
2023/4/9 0:00
黒田日銀の功罪を踏まえつつ、金融政策の望ましい姿を議論する必要がある(2月の国会所信聴取)
植田和男氏が9日付で日銀の総裁に就任した。前任の黒田東彦氏が10年間続けた金融緩和策の功罪を踏まえつつ、柔軟な政策運営と明快な対外説明に努めてほしい。

欧米で金融が動揺し、視界不良のなかでの船出だ。海外当局と緊密に連携しつつ経済や金融の安定に細心の注意を払う必要がある。

同時並行で、黒田日銀が積み残した課題に正面から向き合い、適切に対処することを求めたい。

黒田日銀が2013年に導入した異次元緩和は当初、円安・株高をテコに景気を押し上げた。デフレ対応が不十分だとする日銀への批判も消えた。黒田氏は退任の記者会見で「物価が持続的に下落するという意味でのデフレではなくなった」と成果を誇示した。

だが次第に硬直的な政策運営がみられ、金融緩和の副作用が目立つようになったことも事実だ。

長期金利を低く抑える政策の枠組みのもとで、金利上昇圧力を受けた日銀は大量の国債購入を強いられた。金利形成をゆがめ、企業の社債発行をかく乱した。22年12月の抜き打ち的な政策修正を含め、市場との対話に課題を残した。

植田新総裁はこうした教訓を踏まえ、政策運営の枠組みや情報発信のあり方を総点検してほしい。

植田氏は2月に国会での所信聴取で「私の使命は魔法のような特別な金融緩和政策を考えて実行することではない」と語った。黒田日銀の初期のような「一発逆転」は試みず、経済や物価を丹念に点検し、その時々に最も適した政策対応をとるという意思表示だ。

国内の需要増に根ざす継続的な賃金と物価の上昇が見通せない以上、金融政策の拙速な正常化は避けるべきだ。異次元緩和をすぐにはやめられないからこそ、副作用の軽減や丁寧な対話が問われる。

国際派で金融規制に精通した氷見野良三氏、異次元緩和を熟知する内田真一氏という2人の副総裁と協力し、状況にあわせ柔軟かつ機動的に対応できる望ましい政策の姿を探ってほしい。

黒田日銀の負の遺産は発行残高の5割にも及ぶ国債保有にも表れる。政府は財政運営で日銀頼みの誘惑を排し、長期の財政健全化の道筋づくりを急ぐべきだ。

経済再生への政策の主役は企業や個人の創意工夫を促し、障壁をなくす成長戦略や構造改革だ。政府・与党は植田日銀発足を機に、金融政策に過度に依存しない経済政策の形を整える必要がある。