バンブーズブログ

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日本株高を演出する海外勢

 その正体と今後の動きは
 
日経平均3万円時代の株の勝ち方大研究(2)
#日経マネー特集 #株式投資 #日経マネー
2023/7/22 5:00
 
今年前半に記録的な上昇を見せた日本株相場。本連載では日経平均株価が3万円台に定着する中、今後も有効と思われる投資戦略と注目株を探っていく。有効な戦略の1つは、相場の上昇をけん引した海外投資家が物色しそうな銘柄を先回りして仕込み、彼らの買いを待ち受ける作戦だ。そこで連載の2回目では、海外投資家の動きを予測するため、彼らの特色や選びそうな銘柄の条件を分析する。
東京証券取引所の投資部門別株式売買動向(東証名証の合計)によると、海外投資家は6月第2週(12〜16日)までに12週連続で日本株(現物株)を買い越した。これはアベノミクス相場初期(2012年11月〜13年3月)の18週以来の連続記録だ。買越額は当時を約5000億円上回った。

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3種類の海外投資家

 
海外投資家は東証の売買代金の約7割を占めており、日本株の動向を占う上で重要な存在だ。地域別で見ると欧州が最も多く、比率は約8割に上る(5月末時点)。ただ、一口に「欧州」と言っても欧州の企業や年金基金だけを指すのではなく、「米国企業などでも、欧州内の支店を経由していた場合は『欧州』として集計される可能性がある」(市場関係者)。中東のオイルマネーの動向も含まれやすいとされている。

海外投資家とは具体的に誰を指すのか、もう少し踏み込んでみよう。JPモルガン証券の高田将成クオンツストラテジストによると、数ミリ秒単位で動く「HFT(超高速取引業者)」など超短期の投資家を除くと、彼らは大きく3つの属性に分けられるという。

 
まずは、数営業日から1カ月程度で売買する短期のプレーヤー。売買期間が短いことから、「テクニカルの色彩が強く、先物デリバティブ金融派生商品)を頻繁に利用して市場全体の動きを追うことが多い主体だ」(高田さん)。

例えば、相場の流れに追随するトレンドフォロワーの「商品投資顧問(CTA)」や、市場の変動率をもとに株の運用比率を機械的に決める「リスクパリティ」などの投資家は、おおむねこの短期の時間軸で動くとされている。

続いて、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を見る色彩が強い、中期の投資家層。企業業績や景気は日々変わるものではないため、「3〜6カ月程度の期間で運用し、投資妙味を見極めている」(高田さん)。具体的には、マクロ系のヘッジファンドの他、株価指数を上回る運用成績を目指す「アクティブ型ファンド」などが、この部類に入るとされる。

最後は、より長期にわたって運用する投資家層だ。年金、銀行、保険、大学基金など、巨額資金を動かすプレーヤーで、政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)やオイルマネーも含まれる。

高田さんは、「彼らが動かす資産は短期勢と比べて圧倒的に大きい」と指摘。そのため、ファンダメンタルズを見て株価の上昇・下落にベットするだけではなく、「国・地域や業界の大きな変化を見て、保有資産を分散させる目的で動くこともある」と続ける。

海外投資家と言っても、短期・中期・長期のどの立場に立つかによって、売買のタイミングや見える景色は異なってくる。どれか1つだけを見るのではなく、どの投資家層が今の相場のけん引役となっているのか、全体を俯瞰する必要があるだろう。

日本株相対評価が高まった

海外投資家からの日本株評価に変化が起き始めたのは、3月の米シリコンバレーバンクの破綻に端を発した、株価急落以降と見られている。世界の株式需給データから算出した日本株の「センチメント(心理)」は米国や欧州対比で高まった。

 
さらに、「中国株からの資金シフトが起きた」との声もある。UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの最高投資責任者、青木大樹さんは、「中国経済の停滞が意識され、同国株への投資が難しくなる中、欧米株は金融引き締めによる警戒感から、株高持続の不確実性が高いと見られた。一方、日本株は他のアジア株と比較して相対的に底堅く、魅力が高いとされた」と話す。

日本株買いで先陣を切ったのは、短期の海外投資家だ。CTAの日経平均先物のポジション(持ち高)を見ると、3月まではショート(売り持ち)が目立ったが、4月以降はロング(買い持ち)に転じた。

 
先物は、現物以上に相場の流れに沿う『順張り』の要素が強く、日本株の上昇を主導しやすい。ポジションの積み上げペースは速く、21年のピークの約半分まで来ている」(高田さん)

その後5〜6月頃には、中長期の投資家が本格的に日本株に買いを入れ始めたと見られている。ヘッジファンド全体に占める日本株のポジションは増加傾向にある。

 
長期投資家に関しては、「(国ごとに資産配分の比率を決める)『カントリー・アロケーション』戦略を採用している投資家が、海外株を売り、日本株の比率を高める動きが見られた」(三井住友DSアセットマネジメントの白木久史チーフグローバルストラテジスト)との指摘も聞かれた。

日本株が買われた理由

資金シフト面以外でも、海外投資家が日本株を選好した要因は複数存在する。

 
一つはリオープン(経済再開)の効果だ。「5月に新型コロナウイルス感染症法上の位置付けが『5類』に移行したタイミングと、中長期の投資家が本格的に買いを入れたタイミングが重なっており、米国や欧州、中国などと比較した景況感の強さなどが評価されたようだ」(高田さん)

青木さんは「日本のマクロ経済について説明してほしいという海外からの問い合わせが5〜6月頃から増えた」と話す。また、東証のPBR(株価純資産倍率)改革を挙げる声もある。ピクテ・ジャパンの糸島孝俊ストラテジストは、「東証企業価値の向上を主導するのは異例のこと。改革の本気度が海外投資家に浸透し、資金流入が始まった」と説明する。

東海東京調査センターの仙石誠シニアエクイティマーケットアナリストは、「日経平均のPBR(加重平均)は足元で1.3倍台と、過去と比較しても割高感はない。自社株買いなど株主還元強化への期待が株価上昇を後押しした」と見ている。

 
オイルマネー日本株の積極買いに参戦した可能性を指摘するのは高田さんだ。オイルマネー保有しやすい銘柄(MSCIジャパン構成銘柄)の資金フローを見ると、「5〜6月の2カ月間で約3000億円の強烈な買いが入っている」。

高田さんは、この背景には昨年の資源価格高騰の反動があると推察する。「グローバルなヘッジファンドは、今年の春先あたりから銅や小麦など主要なコモディティー(商品)を売り持ちにしている。一段の資源価格下落の備えとして、非資源国で、かつ景気や企業業績が比較的底堅い日本株分散投資先の一つに選ばれた」

その他、円安進行による企業業績の改善期待や、米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社、バークシャー・ハザウェイによる日本の5大商社株への追加投資が、日本株上昇の呼び水となったとの声も聞かれた。

大型株が相場をけん引

もっとも、日本株が一律に買われたわけではない。株高をけん引したのは、大型株だった。東証規模別株価指数を見ると、「小型」の上昇率は昨年末比で14%にとどまっているのに対して、「大型」は同22%上昇した(7月19日時点)。

中でも海外投資家による買いが大きかったのは、半導体や自動車関連株だ。高田さんの試算によると、海外投資家による半導体関連銘柄(MSCIジャパン構成銘柄)の買いは、累積ベースで年初来で1兆円近くに達した(6月中旬時点)。「近年まれに見るスピードだ」(高田さん)

 
日本株にはまだ買い余地

では海外投資家の買いは今後も続くのだろうか。東証の投資部門別株式売買動向を見ると、海外投資家は現物株を12週連続で買い越した翌週に売り越しに転じたが、6月第4週(26〜30日)、7月第1週(3〜7日)は再度「買い」が「売り」を上回った。

仙石さんは「例年、秋口にかけては夏枯れ相場で商いが薄くなり、売買差がフラットになりやすい傾向にある」と話す。一時的に日本株が売られる可能性はあるものの、「過去の大相場と比べると海外投資家の買い越し規模は小さく、日本株が買われる余地はある」と続ける。

青木さんは「海外投資家は為替の動向やインフレの持続性に注目している。株高の持続性には半信半疑の声も聞かれるが、4〜9月期の決算発表を終えて業績拡大や株主還元への期待が高まれば、秋口頃から買いが強まりそうだ」との見方を示す。

高田さんによると、「海外投資家が日本株を8週連続で買い越した後の、90日後のセクター別パフォーマンス」は過去、内需株が買われるケースが多かった。

糸島さんは「足元の株価上昇と業績の乖離が大きい半導体株などと比較して、内需株は割安水準。値上げでEPS(1株当たり利益)の上昇に期待できそうな株に妙味がありそうだ」と見ている。

(井沢ひとみ)