#社説 #オピニオン
2023/7/23 19:00
修理工場での不正と、それを生んだ経営体制の双方が厳しく問われる(東京都内のビッグモーターの店舗)
中古車販売大手のビッグモーター(東京・港)による保険金の不正請求問題で、耳を疑うような事実が次々と明らかになっている。特別調査委員会がまとめた調査報告書からは、もはや経営の体をなしていないガバナンスの実態が浮き彫りになってきた。
ゴルフボールをつめた靴下でたたく、ヘッドライトのカバーを割る、わざとボディーに引っかき傷を付ける――。修理も手掛ける同社は、顧客から預かった車をわざと傷めつけて損害保険会社に過大な保険金を請求していたという。悪質な行為は30カ所ある工場すべてで行われていた。
報告書によると、社員へのアンケート調査の結果、対象となる修理部門の27%がなんらかの形で不正に関わったという。
見逃せないのは現場を悪事に走らせた経営体制だ。重いノルマが現場に課され、目標未達の場合には工場長たちが厳しく叱責されたという。経営陣の独断による降格処分も乱発されていた。典型的な恐怖支配である。会社法で義務付けられた取締役会がルールにのっとって開かれていなかったことにも驚きを禁じ得ない。
これまでに判明した事実を列挙するだけでも、不正行為自体も、それを生んだ経営体制も論外といえる。ただ、不正の全容が明らかになったとはまだいえない。
経営陣がどの程度不正を認識し、関わったのかは解明しきれていない。修理だけでなく主力の中古車販売部門に不正や背信行為がなかったのかも調べるべきだ。
調査の方法にも課題は残る。役職員の社内のやりとりは対話アプリのLINEで行われたが、調査委は元のデータにはあたっていない。当該部門でアンケート調査の対象者は6割どまりだ。これでは膿(うみ)を出し切れまい。
損保各社は被害者でもあるが、保険請求額の算出にも関わる。当局も含めて真相解明に妥協は許されない。悪質性が認定されれば罰則も免れない。顧客や取引先を欺いた代償は計り知れない。