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なぜ「店長で年収4607万円」が可能だったのか…

「アメとムチ」で社員を支配したビッグモーターの強権経営
2023年8月7日 08:00
PRESIDENT Online

中古車販売大手のビッグモーターをめぐり、保険金の不正請求など複数の不祥事が相次いで報じられている。企業アナリストの大関暁夫さんは「不祥事の背景には『行き過ぎた拡大戦略』『監理規制の不備』『損保会社との関係性』という3つの問題がある。このままでは再生への出口は見えない」という――。

ビッグモーター半田店(写真=HQA02330/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
不祥事に直結した「3つの根源」
中古車販売大手のビッグモーターによる保険金の不正請求問題が、大きな波紋を呼んでいます。独自のビジネスモデルで急成長を遂げ、現在全国に300店舗、従業員6000人、年商7000億円で業界トップに君臨している同社は、どこで道を踏み外してしまったのでしょうか。筆者は、業界の特性、同社の組織風土、そして、そのビジネスモデルに、不祥事に直結した3つの大きな根源があったとみています。

まず、中古車販売の業界的な特性から説明します。中古車販売のビジネスモデルは、その名の通り中古車を買い取り整備の上、利益を乗せて再販するという、至って単純なものです。主な販売先の違いで、大きく2種類に分けられます。

主に業者専用のオークション会場で販売する「オークション販売」と、自社で直接客に販売する「自社直販」です。前者は在庫負担が比較的少ない代わりに、業者向け販売でかつ仲介手数料がかかるので利幅が小さくなります。後者は直販であるがゆえに、折衝次第で利益の上乗せが可能ですが、集客のための店舗整備や宣伝広告にコストがかかります。ビッグモーターは主に後者です。


薄利多売のビジネスモデルで、急速な店舗網拡大
10年ほど前までこの業界の直販粗利は20%前後あったと言われていますが、ネットでの一括見積が当たり前になったことで同業者間での値引き競争が激化し、今は10%~15%というのが実態なのです。そのような状況下にあってビッグモーターは、どこの店も大量展示を原則とした大型店舗を構え、また有名タレントを使ったメディア広告も積極的に展開するなど、ランニングコストは業界内でも飛び抜けて高かったと思われます。

まさに薄利多売のビジネスモデルです。このビジネスで右肩上がりの成長を目指すためには、多売を加速度的に増やす必要があり急速な店舗網拡大を仕掛けることになるのです。ビッグモーターにおける業容拡大に関するひとつの大きな転機は2005年、関西圏の中古車販売大手で東証二部上場企業ハナテンとの資本業務提携でした。派手なCM展開で集客を図って売り上げを伸ばす手法は、ハナテンに学んだともいえます。16年にはハナテンの株式を100%取得して完全子会社化し、これを機に出店ペースが急速に上がっています。


歯車の狂い始めは、修理・整理部門に対する目標設定
この時期の投資に次ぐ投資と人員増加による人件費の激増および在庫負担増で、薄利多売ビジネスだけでは成長曲線を描きにくくなり、同社がとった戦略が修理・整備と保険で稼ぐというものだったのです。保険は中古車販売と抱き合わせでの自賠責保険、任意保険の代理店としての手数料収入だけでなく、大手損保会社への保険仲介の見返りとして大量の事故車両の修理斡旋を受け収益につなげる、というビジネスモデルへの転換でした。

歯車の狂い始めは、修理・整理部門に対する修理1台あたりの工賃と部品粗利の合計への目標設定です。社内では修理1台あたりの工賃と部品粗利の合計を「アット(@)」と呼び、具体的には1台14万円がその最低目標値とされていました。



※写真はイメージです 写真=iStock.com/Kunakorn Rassadornyindee
利用者心理を巧みについた不当修理
そもそも、事故車修理の修理金額に目標を設定するという考え方自体が謎すぎます。修理金額というもの自体、本来傷の状態で決まるものであり、修理請負側が勝手に決められるものではありません。となれば軽微な傷の修理でも目標値に届かせるためには、必要のない修理まで行う必要が生じるわけで、ここに今回の不祥事の構造的な原因の入り口があったといえます。

常識で考えれば、軽微な傷の修理に想定外に高い金額請求があれば、トラブルが発生するという流れもあったでしょう。しかし、それを最小限に抑え不当修理を可能にしたのが、損害保険の利用だったのです。

 


保険を利用して修理をすれば、基本的に持ち主の腹は痛まないわけで(もちろん後々、保険等級の低下での保険料アップ負担は生じます)、その場はやり過ごされやすいという利用者心理を巧みについたものでもありました。いずれにせよ、事故車修理の金額に目標を設定するような無理が生じた根本原因は、薄利多売ビジネスの行き過ぎた拡大戦略に相違なく、一大不祥事のひとつ目の根源はここにあったといえるのです。


悪事に手を染めてでも上の指示に従ったほうが得
不祥事ふたつ目の根源は、ビッグモーターの粗暴な企業マネジメントを野放しにしてきた監理不在経営です。既に多くのメディアで取り上げられているように、オーナー経営の同社は創業者である兼重宏行社長(7月26日付で辞任)とその長男の宏一副社長(同日辞任)の絶対君主経営の下で、かなりの強権経営がされていたといわれています。

社員全員に配られていた「経営計画書」からも、「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある。今、すぐ辞めてください」「指示されたことは考えないで即実行する。上司は部下が実行するまで言い続ける」「経営方針の執行責任を持つ幹部には、目標達成に必要な部下の生殺与奪権を与える」等々、恐ろしいほどの封建的管理がうかがわれます。