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闇バイト中毒に?元自衛官に実刑判決「ミツハシさんいないとやっていけない」

闇バイト中毒に?元自衛官実刑判決「ミツハシさんいないとやっていけない」指示役との「テレグラム」
配信 2023年8月5日 14:13更新 2023年8月5日 17:41
日テレNEWS

■元自衛官の男に懲役3年の実刑判決
「被告人を懲役3年の実刑に処す」「送金やレンタカーの借り受けなど、名前を明らかにする役割を進んでやる存在は犯行グループにとって貴重である」

今年1月、仲間と共謀して千葉県・大網白里市のリサイクルショップに押し入り、男性店長にけがをさせた罪などに問われていた元陸上自衛官の中桐海知(なかぎりかいち)被告に、実刑判決が言い渡された。

 

■「ミツハシさんいないとやっていけない」元自衛官と闇バイト指示役の関係性
去年から今年にかけ全国で相次いだ強盗事件。

「ルフィ」「ミツハシ」「キム」などと名乗る指示役が、秘匿性の高いSNS「テレグラム」などを通じて、闇バイトで募った実行役に指示を出し、強盗を行わせたとみられている。今年1月には東京・狛江市の住宅で90歳の女性が殺害される強盗致死事件も発生し、日本中を震撼させた。

裁判では元自衛官の中桐被告が、指示役ミツハシこと今村磨人容疑者に対し、「ミツハシさんいないとやっていけない」「この仕事中毒です」と送っていたことが明らかになった。本来、国民の命を守るはずの自衛官がなぜ闇バイトに手を染めたのか。そして、闇バイトの指示役とはどんなやりとりが繰り返されていたのだろうか。

 


初公判にのぞむ中桐被告 イラスト:宮脇周作

 

■地元では明るいお調子者
逮捕直後の1月、私たちは「闇バイト」に応募した当時23歳の若者の素顔を知りたいと実家のある三重県にむかった。

「小学校時代、中桐さんは面白かった。気さくだったし、やさしかったよ。家でゲームもしたし」何度も遊んだことがあるという男性は、少年時代の中桐被告をこう振り返った。

ほかにも地元の人から「面白い人」「社交的」といった声が多く聞かれた。また、中桐被告の高校時代の同級生の1人は「出会った中で断トツでいちばん面白いヤツだった」「いつも斜め上をいくタイプ」「調子乗り」と話した。

 


高校時代の中桐被告

高校卒業後は高校の先生のすすめで、自衛隊に入隊した中桐被告。

地元で愛される明るい青年と、闇バイトの接点とはいったいなんだったのだろうか。

 

■「当たったときの気持ちよさを忘れられなかった」ギャンブルから始まった転落人生
裁判では中桐被告が「借金を全額かえしたいです」と、ミツハシに送っていたことが明らかになった。

弁護人から借金の理由について問われると、中桐被告は「ギャンブルです」と即答した。中桐被告の知人によると、中桐被告は「競艇に数十万かけることがあった。複数の消費者金融から金を借りていた」という。借金は消費者金融や親などからで合計400万円を超えた。これが原因で自衛隊から外出禁止をだされたという。

中桐被告は外出禁止が出された翌日、体育訓練を装い、外に出て自衛隊から脱走した。その際、持っていたのはキャッシュカードと現金5000円程度だけ。「(収入を得るため)高額なバイトをしようと思った」という。ここから闇バイトに手を染めるようになっていった中桐被告。ミツハシと接触し強盗事件へと突き進んでいくことになる。

 

■「捨て駒だと理解している」から「この仕事中毒に」 変化した闇バイトへの気持ち
中桐被告がミツハシと秘匿性が高いとされるSNS・テレグラムで、最初に連絡をとったのは去年11月上旬。

「12月22日 売り子の仕事はどうですか?」

接触後すぐにミツハシから、盗難品であるロレックスなどを売る仕事を頼まれ、引き受けたという。そのときのやりとりでは「自分も捨て駒だと理解しています」という中桐被告に対し、「そんなこと言っちゃだめ」とミツハシからメッセージが送られている。

最初は闇バイトに対し懐疑的だった中桐被告。しかし売り子の仕事を終わって以降態度が急変する。

12月24日、中桐被告はミツハシに「なんかこの仕事中毒です」「ミツハシさんいないとやっていけないです」とメッセージを送り、この日以降も「仕事ください」「明日なにかありますか」と仕事を希望するメッセージはほぼ毎日送られていた。

今年1月9日「明日、東京いける?」「店舗の見張り、調査で報酬50万円」

今回の大網白里市の強盗事件の運転手役と見張り役をミツハシから打診され、引き受けたという。

 

■仕事断ったら「むごいことされると」
裁判で中桐被告は強盗について「自分の中で度が過ぎている」と断ろうと思ったと語った。

それでも引き受けた理由については金がほしかったことに加え、免許証の写真を撮られていたことをあげ、「自分の場所がバレていると思った」「殴られたり、どつかれたり、むごいことをされると思った」「家族がそういう目にあうのが怖かった」と語った。

 


犯行直後の防犯カメラ映像 中桐被告は車内で見張り役を担った

 

■「なにもしらない」が準備、そして強盗実行へ
「(ミツハシに犯行について)聞いたけど答えてくれなかった」。詳しい犯行内容については知らされていなかったと話した中桐被告。

一方でミツハシの指示に従い、犯行に使う2台のレンタカーを確保。犯行費用の調達、実行役への送金など着々と準備を進めていった。

事件当日は、ミツハシから手袋・テープ・破れない袋・リュック・バールを購入するように頼まれたが、「嫌な予感がした」「最終的にそれで殴る予感がしたから」という理由で、初めてミツハシの指示に反しバールを購入しなかったという。

午後4時半ごろ「売りたいものがある。7時すぎるけどいいですか」と被害者の店に電話をかけ、午後7時ごろには千葉駅に実行役である永田陸人被告と作田竜二被告を迎えにいった。予定の時間よりも遅れていたという。中桐被告はこのとき2人とは初めて会い、用意していた手袋などを渡し現場となったリサイクルショップまで車を移動させた。

現場についた2人は事務所に侵入し、70代の男性店長に対し、殴る蹴るなど加療約2週間の暴行を加え、金を奪おうとしたとされる。その際、中桐被告は車に残り周囲を警戒する、見張り役だった。

 

■中桐「強盗はやめようと提案。永田が怖かった」 永田「和気あいあいとしていた。中止の提案はなかった」
今回の裁判では実行役のひとりである永田陸人被告が出廷した。

 


中桐被告の共犯者として起訴された永田被告

千葉駅から被害店舗に向かうときの中桐被告の様子について、永田被告は「これから強盗に行く雰囲気ではなくおちゃらけているような感じで、遅れてきたことにも反省していない様子だった」と話した。一方で、中桐被告は永田被告について「ヤバイやつ、反グレチンピラ、精神的にヤバイやつと思いました」と恐怖を感じたという。

闇バイトで知り合った2人の発言は至る所で食い違っていた。中桐被告の発言では、店に到着すると強盗の中止を提案したという。中桐被告から「やめましょう」といったが「いまさらなに言ってんだという罵声をあびせられました」。提案は永田被告にすぐに却下されたという。一方で永田被告は中桐被告の中止の提案については、「一切ないです」ときっぱりと事実を否定した。

また、永田被告は強盗を失敗したあとの帰りの車内の雰囲気を「作田と中桐がわきあいあいと話していた」とし、中桐被告が「一生ミツハシについていく、裏の世界で生きていく。次はタタキをやる」と話していたとも証言した。

この証言について中桐被告は「絶対に言っていない」と否定。中桐被告は強盗に対し積極的だったのか、それとも消極的であったのか。真実はわからなかった。

 

■癒えない被害者の傷「また襲われるのではないかと怯えている」
裁判では被害者の手紙が読み上げられた。

「殴られたり、蹴られたり、その回数は十数回を超えていました」「何十発も殴られましたが、金庫の場所は言いませんでした」

被害者が必死の抵抗をしたため何もとられずにすんだが、両頬、鼻を骨折するなど加療2週間のケガをし唇がきれたため、ゼリー状のものしか食べることができなかったという。

事件後、店の防犯カメラの数を増やしたり、頑丈な柵をつけたり徹底した防犯対策をしているが、事件から半年以上たった今も「また襲われるのではないかとおびえている」とつづった。何の罪もない市民を突然襲い、金を奪おうとし、一生消えない傷を負わせた罪は重い。

 

■逮捕されていなかったら「狛江に行っていた」
事件の翌日、中桐被告は止めてあったレンタカーをとりにいった際、警戒していた警察官から職務質問され、逮捕されることになる。「逮捕されていなかったら?」という弁護士の質問に対し、中桐被告は「狛江に行っていたと思います」とはっきりと答えた。

もし、あの場で捕まっていなければ、中桐被告は強盗致死事件の現場となった住宅に行き、犯行に加担することになっていたのだ。逮捕されたときの気持ちについて聞かれると「安心した」「もう強盗とかそういうことをしなくていいから」と話した。