#社説 #オピニオン
2023/9/19 2:00
企業が資本コストを上回るリターンをあげることが、株式市場を活性化させる(東証)
企業は事業を進めるために株主から資本を調達し、株主は投資するリスクに見合う高いリターンを期待する。企業が株主の期待収益、すなわち「資本コスト」を把握することが経営に規律を与え、市場の活性化につながる。
経営が破綻すれば真っ先に価値を失うのは資本を提供した株主である。高い収益を期待するのは当然だ。残念ながら日本企業は、株主のリスク・リターンに関する考え方が弱かった。意識をもっと研ぎ澄ませてほしい。
東京証券取引所が今年3月末、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」について各社に開示を求めたのも、そうした問題意識に基づく。実際、コーポレートガバナンス報告書などで、対策や方針の表明が相次いでいるのは望ましい流れだ。
しかし、具体性に欠けるものが散見される。特に、本丸である資本コストに具体的に言及している企業は決して多くない。自社株買いや増配で株価を一時的に刺激しても、長続きはしないだろう。
そんな中で好事例として目をひくのが村田製作所の取り組みだ。2022年度の資本コスト(加重平均)を7.5%と推計。投下資本に対する利益率がこの水準を上回っていると分析し、今後も資本コストの低減と、投下資本の効率向上を目指していくとした。
日本企業の資本コストはおおむね8%とされるが、事業形態や金利水準によって大きく変わる。経営の透明性が高ければ、株主はそれだけ投資リスクが減ると考え、資本コストの低減につながる。情報開示や投資家向け広報(IR)は重要な経営戦略として位置づけられるべきだ。
資本効率の改善という点では、目的がはっきりしない政策保有株の削減が急がれる。
日立製作所や日本製鉄などの大企業を中心に、政策株の売却が続く。逆に、政策株を多く持つ企業は、機関投資家が株主総会で取締役選任に反対する例も見られる。資本の無駄遣いへの市場の視線が厳しくなっていることを、企業は認識する必要がある。
かつての日本企業は、株主から得た資本にコストが伴うという意識が希薄だった。それが資本の浪費を許し、財テクや不動産投機につながり、30余年前の狂乱のバブルを生んだ。株価がバブル崩壊後の最高値水準にある今こそ、胸に刻むべき教訓だ。