バンブーズブログ

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[社説]「金利ある経済」へ変革を恐れるな 選択の2024

2024年の株式取引が始まった。新しい少額投資非課税制度(NISA)の下で個人と株式市場の距離も縮まる。経済の血液ともいえる「お金」の巡りを良くして産業の新陳代謝を促すには、資本市場の活性化が欠かせない。株式を上場する企業が成長に向けた改革をどう進めるか、個々の選択がとりわけ重要である。

二択の問い終わらせよ

日本では長らく、企業に最も大切な存在は株主か、それとも従業員や取引先、地域社会などの利害関係者かという議論が続いた。日本がデフレを脱し経済のパイが広がる好機となりうる24年は、この二者択一の問いを終わらせたい。

株主と従業員、取引先などの利害は本来、一致するはずだ。経営が破綻すれば、株主は真っ先に損失を被る。その意向を企業が重視するのは当然だ。しかし、顧客や従業員などを軽んじては事業が長続きせず、株主利益を損なう。

企業に求められるのは株主との対話を通じて富を創造し、幅広い利害関係者への分配によって成長を駆動することだ。

この観点からすると、日本の市場はまだ十分に機能しているとは言えない。企業改革の速度を上げる必要がある。

第一に収益性を格段に高めなければならない。

株主からの調達資金でどれほど利益をあげているかを見る自己資本利益率ROE)は、日本企業の場合、約9%と米欧より低い状態が続く。豊富な現金を活用するほかM&A(合併・買収)も駆使し、事業の中身を競争力の高いものに替えることが急務だ。

20社を超す上場子会社をゼロにし、社会イノベーション事業などの拡大を急ぐ日立製作所が良い例だ。改革を進めた東原敏昭会長は著書の中で、複合企業ゆえに事業価値の総和が減る「コングロマリット・ディスカウント」を投資家から批判され、この時の悔しさが事業の再編を進めるバネになったことを記している。

第二に成長への投資を惜しんではならない。特に人だ。バブル崩壊後の日本企業は、人件費を切り詰めることで収益をひねり出していた。今こそ、人件費は人材育成への投資と捉えるべきだ。

株主の力が強すぎると企業は自社株買いなどを優先し、従業員などが報われないと批判されることが多い。ところが、生命保険協会の調べでは、1997年から2020年までの間に、株主の力が格段に強い米国企業は人件費を2.5倍に増やした。同期間の日本企業の人件費は横ばいだった。

この点で注目したい1社は、丸井グループだ。同社は統合報告書で、研修などの人的投資の収益率が店舗投資を上回ると計算。その上で青井浩社長は「人的資本投資を5年間で650億円以上に拡大する」と述べた。

第三に経営に多様な視点を盛りこみたい。ESG(環境・社会・企業統治)の問題解決の度合いを役員報酬に連動させるのも、一案だろう。監査法人デロイトトーマツグループによれば、日本の主要大企業の6割以上が、役員報酬を決める要素にESGの視点を組み込んでいる。中堅・中小企業への広がりも期待したい。

新NISAで好循環を

改革を通じて生み出した富を、企業が個人に届ける手段が新NISAである。事前の人気は米企業などに投資するファンドに集まっているという。資産運用の観点に立てば、株価上昇が見込める市場に投資するのは賢明な判断といえる。とはいえ、2000兆円に達する個人金融資産が自分たちの国の企業に流れないのは残念だ。

個人マネーが国内に流れるようにするには、企業が収益力を高め投資を引きつける必要がある。幅広い株主の声に耳を傾け、戦略に落とし込み、素早く実行するリーダーシップも求められる。

国内のお金の動きが活発になれば、一部は新興企業に流入し、産業構造の変革に資する。

日本人のお金が日本企業に広く投資され、その果実を私たちひとりひとりが受け取る。そんな資本市場を軸とした循環を確立する年としたい。

バブル崩壊後の「失われた」歳月は、すでに30余年を数える。日本が金利や物価、賃金の上昇を伴う正常な経済に戻る際に、何よりも必要なのは成長だ。企業こそがそのけん引役である。