#ダイバーシティ #ライフスタイル #社説
2023/10/27 2:00
最高裁の決定を受け記者会見する、代理人の南和行弁護士(左)と吉田昌史弁護士=25日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ
生殖機能をなくす手術を性別変更の事実上の要件とする性同一性障害特例法の規定について、最高裁大法廷は「違憲で無効」との決定を下した。
「手術を甘受するか、性自認に従った扱いを受ける法的利益を放棄するかという過酷な二者択一を迫るものだ」と指摘し、個人の尊重を定めた憲法13条に反するとした。裁判官15人の全員一致であり重く受けとめる必要がある。
特例法は2004年に施行され1万人以上が性別を変更した。2人以上の医師の一致した診断のうえで、未成年の子どもがいないなど5要件を満たす必要がある。
このうち「生殖腺がないかその機能を永続的に欠く」の規定は、性別変更後に子どもが生まれれば親子関係など社会に混乱を生じさせかねないことなどが理由とされる。最高裁第2小法廷は19年、この規定を合憲としていた。
今回は、性別変更した人が子どもをもうけることは極めてまれと考えられることや、当事者への理解が社会に広がりつつあることなどを踏まえ、判断を見直した。
医学的にも法制定当時より知見が進み、手術はかつての「最終段階の治療」ではなく、選択肢の一つと見なされている。世界保健機関は14年、不本意な手術を要件とすることは人権侵害との声明を出し、国際的にも見直しの動きが広がっていた。時代の変化に即した決定といえる。
一方、特例法では変更後の性別に沿った外観を備えることも要件となっている。最高裁は今回、この規定については審理が尽くされていないとして、高裁に差し戻した。ただ3人の判事がこれも違憲だとして反対意見を述べている。
今回の大法廷決定を受けて、国は特例法の改正を急ぐべきだ。その際、違憲とされた部分だけを議論の対象にするのではあまりに狭いだろう。外観の規定などについても、幅広く議論し、必要な見直しをすることが欠かせない。そもそも、合憲とした19年の決定もあくまで「現時点では」であり、「憲法適合性は不断の検討を要する」と述べていた。
この問題をめぐっては、「自分は女だといえば、だれもが自由に女湯に入れる」といった誤った言説も見られる。正しい理解の促進と、だれもが安心して生き生きと暮らすためのルールづくりを、政府や国会が率先して進め、不安をなくしていくべきだ。