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2023/12/1 19:05
資産運用立国へ向けた政府の取り組みについて米ニューヨークで講演した岸田首相(9月)
健全な競争があってこそ製品やサービスが磨かれる。資産運用業も同じだ。既存の金融グループ系列の運用会社ばかりが並ぶ構図を脱し、新規の運用会社が参入しやすい環境を整えるべきだ。
日本は歴史的に証券会社や銀行などが子会社をつくり資産運用ビジネスを担ってきた。販売する親会社の意向が優先され、運用の高度化が進まないとの批判がある。
かたや米国は独立系の運用会社がシェア上位に並び、優れた運用力や商品・サービスで顧客の支持を集めている。運用会社が自前の販売網を持つ例もある。運用会社の数は多く、競争も活発だ。
金融庁の金融審議会で、資産運用の高度化を目指す改革案として、参入障壁を下げる規制緩和策が盛り込まれたのは当然だろう。資産運用立国の実現へ向けて、政府が年内にまとめる政策プランの中でいかしてほしい。
運用会社にまず求められるのは顧客の資金を株式や債券などに投資し、長期で増やしていく運用力だ。ただ実情は事務管理の業務が重く、小規模では起業しにくい1つの壁になっている。規制を緩め、管理だけを担う会社と分業できるようになれば、運用に特化した会社として参入しやすくなる。
独立を目指す運用者が、シンガポールなど海外を選ぶ例が多いのは税制面のほかに、こうしたインフラの差である面が大きい。投資信託価格を信託銀行と運用会社の双方で計算するといった古い商慣習の見直しも必要になる。
新興の運用会社を支援し、育成する仕組みも有効だろう。立ち上げ時点から資金の出し手をつくる取り組みだ。年金や金融機関などの参加が想定される。米国の公的年金やシンガポールの政府系ファンドがこうしたプログラムを持つ。単に育成目的でなく、委託先の幅を広げることが全体の運用を押し上げるとの考えがある。
新規参入が増えれば、多様な投資判断が市場に反映される。若い世代の視線をくみ取る運用や、非伝統的な投資先など選択肢が広がる。もちろん規模に関係なく、顧客の大切な資産を預かる受託者として重い責任を果たさねばならないのはいうまでもない。
日本で新規参入が増えなかったのは日本株への投資が長く報われなかった面もあろう。投資先の企業が持続的に成長し魅力を高めねばならない。こうした歯車がかみあってこそ市場は活気づく。