[社説]賃上げ継続へ官民で構造改革を加速せよ
#賃上げ2024 #社説
2024/3/13 19:05
主要企業の賃上げ交渉では満額回答が続出した(13日、東京都中央区)
賃金と物価の好循環に向けた一歩は踏み出せたと言えよう。春の労使交渉は13日に主要企業の回答があり、賃上げで満額回答が続出した。数十年ぶりの高水準という企業も目立つ。
個人消費を上向かせ、日本経済を成長軌道に乗せるには、賃上げの安定した継続が欠かせない。来年以降を見据え、企業も政府も構造改革を進める必要がある。
日立製作所はベースアップ(ベア)に相当する賃金改善で月1万3000円の満額回答を出した。昨年の7000円を上回り、現行の要求方式となった1998年以降で最高だ。定期昇給を含めると5.5%の賃上げとなる。その他の電機や自動車、重工でも満額回答が相次ぎ、日本製鉄は労働組合の要求を上回る回答を出した。
平均賃上げ率は連合が集計した昨年実績の3.58%を上回り、4%超えを予測する声もある。ベアの大幅な引き上げで、実質賃金のプラス転換へ弾みがつく。
日銀は賃上げ動向をマイナス金利政策の解除に向けた大きなポイントとしており、詰めの情勢分析に入る見通しだ。
経団連など経営側が積極的な賃上げを呼びかけ、高水準の回答はある程度予想されていた。重要なのは来年以降の持続力だ。
賃上げの理由では人材確保を挙げる企業が多い。人口減で人手不足は一層深刻になる。企業は賃上げ原資を生み出すために、労働生産性の向上と収益構造の見直しを急ぐべきだ。不採算部門の売却や事業の組み替えなど、遅れていた構造改革を加速する必要がある。
成長戦略も欠かせない。値下げよりも付加価値で競い合い、有望な事業に思い切った投資をすべきだ。コスト削減に偏重した路線から転換し、欧米企業のように人的投資でイノベーションを生み出す経営に踏み出してほしい。
政府は13日、経済界や労働団体のトップと意見交換する政労使会議を開き、中小企業との取引慣行の是正を求めた。賃上げを広く産業界に波及させるためにも、大手は労務費などの適正な価格転嫁に応じる必要がある。
政府にも産業の新陳代謝を促し、成長分野への労働移動を強く後押しする政策を求めたい。企業の構造改革が進めば人員削減の動きが広がる可能性もある。安全網を整備しながら、賃金上昇を伴う転職がしやすい労働市場の改革を急ぐべきだ。