バンブーズブログ

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セブン注目の「都市油田」

 外食・スーパーで廃食油回収
 
 
#日経ビジネス #大阪 #コラム
2024/1/29 2:00
 
デニーズは廃食油を回収していることを店舗前ののれんで告知している
 
スーパーのイトーヨーカドーやレストランチェーンのデニーズが家庭で出た廃食油の回収を強化している。家庭系廃食油は年間約10万トンあるといわれており、そのほとんどが家庭で廃棄されているのが現状だ。処理を施して燃料にする需要などが高まり「都市油田」とも呼ばれ始めた。

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「ここやでぇ〜廃食油リサイクルスポット」。大阪市内にあるセブン&アイ・フードシステムズのファミレスチェーン、デニーズ吹田寿町店の店頭では、こんなのぼりがはためいていた。

このリサイクルスポットは、大阪府大東市にある植田油脂という会社が昨年12月から実施している家庭系廃食油回収の拠点である。デニーズはこのプロジェクトのパートナーとなり、今年11月から大阪府内のデニーズ7店舗で廃食油回収を始めた。リサイクルスポットはスーパーや銀行など60カ所以上あるが、レストランで参加したのはデニーズが初めてだ。

廃食油は再生航空燃料(SAF)の原料の一つとして注目されている。これまで捨てられたり燃やされたりしていた廃食油からリサイクルするため、二酸化炭素(CO2)の排出量削減に貢献できる。日本の航空会社は、2030年時点で燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を打ち出している。このほか、廃食油はバイオ原料やインク溶剤などにリサイクルすることも可能だ。希少金属を含む廃棄物が「都市鉱山」と呼ばれるのと同様、廃食油は「都市油田」とも呼ばれ始めている。

家庭からの廃棄量は年間10万トン

こうした流れに対応して、油脂関連会社がスーパーや自治体などと連携し、回収に乗り出している。21年度、国内で消費されている食用油の量は約250万トンで、家庭からは約10万トンの廃食油が捨てられている。全体から見れば割合は大きくないが、廃食油の需要が高まっている今、絶対量としては無視できない規模である。

「盲点だった」。セブン&アイ・フードシステムズ総務部総務の中根隆雄氏は以前、家庭系廃食油の現状について知ったときのショックを振り返る。デニーズのようなレストランチェーンでは、廃食油を専門業者に回収してもらうことは当たり前だったからだ。問題意識を持つようになり、回収事業者と話をするうちにレストラン事業者として何かできないかと考えるようになった。そして始めたのがリサイクルスポットへの参加だった。

デニーズは現在、回収した油を事業会社に無償で引き渡しており、現時点で収益化は検討していないという。当面は、環境問題に配慮した取り組みをしていることをアピールしていく。中根氏は「自社だけで回収できる量は限られている。いかに他社を巻き込んで活動を広げていくかが大切だ」と力を込める。

ネットスーパー事業から回収スタート

同じセブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂も、今年8月に都内のスーパー3店舗で家庭系廃食油の回収をスタートした。開始から約3カ月で520リットルの家庭系廃食油を回収した。実はイトーヨーカ堂は、今年2月にネットスーパー事業で廃食油の回収を始めていた。家庭を訪問する際、受け取って同社の拠点に集めていたのだ。さらに取り組みを拡大するため、実店舗での回収に乗り出した。

 
廃食油の回収を実施しているイトーヨーカドー曳舟店(写真:セブン&アイ・ホールディングス提供)
油の回収に使用するのは、容量が750ミリリットルの専用リターナブルボトル。この専用ボトルは洗って繰り返し使うことができる。スーパーを訪れた客に空のボトルを渡し、次回来店時に油を入れて持ってきてもらう。普通のペットボトルでも回収はできるが、一度油を入れたペットボトルはリサイクルが難しくなり、廃棄するしかなくなってしまう。リターナブルボトルでこの問題を解決した。

 
廃食油回収に繰り返し使用できるリターナブルボトル(写真:セブン&アイ・ホールディングス提供)
現在は、近隣の油脂事業会社でせっけんやインク溶剤などにリサイクルしている。将来は、SAFの原料にすることも検討しているという。現在は5店舗で回収しているが、拠点を増やし、今後3年間で25トンの回収を目指す。セブン&アイ・ホールディングス総務部渉外オフィサーの藤乘照幸氏は「何かのビジネスにつなげるというよりは、環境に配慮した拠点として認知されることで企業価値が高まることを期待している」と話す。

06年スタートの札幌市は19万リットルに

家庭系廃食油の回収について、「5年近くはボランティア感覚で続けるしかないかもしれない」と話すのは、北海道油脂事業協同組合事務局長の前田慎一氏だ。札幌市は06年から家庭系廃食油の回収に取り組んでいる。22年度は、387カ所で約19.2万リットルの家庭系廃食油を回収した。自治体と協力して地道に回収拠点を増やすことで、ビジネスとして成り立つ量になったという。

特に、顧客が日常的に訪れるスーパーは回収拠点として最適で「1カ月に少なくとも200リットル、多ければ500リットル集まるポテンシャルがある」と前田氏は言う。これは、大手外食チェーンの1店舗が排出する事業系廃食油とほぼ同量に当たるという。1カ所でこの規模になれば、販売収入により採算が取れるという。

「家庭系廃食油の回収率を上げるためには、自治体が先頭に立って、消費者からの認知度を上げたり、回収拠点を増やしたりする必要がある」と前田氏は話す。環境問題に取り組んでいる姿を顧客に見てもらうことは民間企業にとってもプラスだ。両者が車の両輪となって活動を拡大することが重要だろう。

日経ビジネス 関ひらら)

日経ビジネス電子版 2023年12月1日の記事を再構成]