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植田新総裁、慎重姿勢に隠された「副作用修正」の本気度


編集委員 大塚節雄
#金融政策 #植田和男氏 #大塚 節雄
2023/4/10 20:41 (2023/4/10 21:52 更新)[有料会員限定]
岸田文雄首相との会談後、記者団の質問に答える日銀の植田和男新総裁(10日、首相官邸
【この記事のポイント】
・植田総裁は長短金利操作について「継続が適当」と発言
・副作用についての発言が少なく市場には懐疑的な見方も
・まず自らもかかわった金融政策を含む総括作業を優先か
日銀の新体制が始動した。新総裁に就いた植田和男氏は10日の記者会見で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)について「現状の経済・物価・金融情勢にかんがみると、現行のYCCを継続することが適当と考える」との見方を示した。

その一方で、市場機能の低下といった副作用に関しては「すべて今後も注視する」との認識を示したほか、過去10年の異次元緩和に触れて「思い切ったことをやったことに伴う副作用についても配慮しながら、さまざまな政策措置をとっていきたい」と語った。焦点となる副作用修正に向けたシナリオはどう描いているのか。


異次元緩和後の金融政策の姿を決定づけ、市場や経済を大きく左右する5年間が始まった。植田氏は急激な政策の変化を避けつつも、2%インフレの持続的・安定的な目標達成にはなお時間がかかるとの基本認識から、副作用の軽減策などの「メンテナンス」の機を慎重に探る考えを示唆した。

市場参加者の多くは、植田氏が議長としての初舞台となる4月27〜28日の金融政策決定会合か、その次の6月15〜16日の会合で緩和修正に動く可能性を意識している。

米地銀のシリコンバレーバンク(SVB)の破綻を機に、米欧の金融が動揺し、世界の金融・経済の先行きは極めて不透明になっている。

植田氏は欧米金融の動揺について「各国当局の対応もあり、個別先の問題であるという認識が広がった」としたうえで、「市場は落ち着きを取り戻しつつあると認識している」と述べた。その一方で「市場の不透明感、不安感は完全に払拭された状態ではない。今後の状況についてしっかり注視していきたい」との見方を示した。

ここで金融引き締めとみられるような挙に出れば、植田日銀の初アクションが市場の混乱を生み、国際金融市場のかく乱要因にもなりかねない。素直に考えると、急いでYCCを修正する可能性は低いと読める。

だが、金融市場にくすぶる思惑は消えない。市場参加者には「2月の国会聴取に比べて、副作用に対する言及が減るようなら、むしろ政策修正は近い」などと深読みし、「逆張り」的に待ち受ける参加者もいた。

YCCの修正は事前に予告すると急激な長期金利の上昇を招くので、どうしても実施は「抜き打ち的」になってしまう。今回の記者会見で副作用について具体的な言及が少なかった分、むしろ近い未来のYCC修正の可能性も消えない、という見方も成り立つ。

だが、総裁の交代期には市場が荒れやすくなる面は否定できない。かたくななまでに金融緩和にこだわった黒田日銀のあとならなおさらだ。植田氏としては当面は黒田緩和を引き継ぎ、金融緩和を継続するとの姿勢を市場に浸透させたいとの思いがある可能性が高い。

「物価安定の総仕上げ」が使命だとした植田氏。賃上げなどの「喜ばしい」動きはあるが、その持続性を含め、国内需要に根ざす2%インフレは「そう簡単な目標ではない」との慎重な見方を示した。

植田氏の基本戦略はこうだ。基調的なインフレ率が「本当に安定的、持続的に2%に達する情勢かどうかを見極めて、適切なタイミングで正常化に行くのであれば、行かなくてはいけない」。その一方で、2%インフレの持続が「なかなか難しいということなら、副作用に配慮しつつ、持続可能な金融緩和の枠組みが何かを探る」。

つまり、金融緩和はまだしばらくやめられそうにないからこそ、必要に応じて副作用の軽減策が必要になる、というスタンスだ。まずは副作用の軽減策が、市場に「金融政策の引き締め」と受け止められる事態を避けたいと考えている可能性が高い。