バンブーズブログ

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社説]不正に走る研究環境を変えよ


 
 
#社説
2023/4/12 2:00
責任者を務めた研究で不正行為が発覚し、記者会見するJAXA古川聡飛行士ら=共同
国内で相次ぐ研究不正にどう対処すべきか。現在のような倫理に頼る再発防止策には、限界がある。構造的な問題に目を向け、不正に走る動機をできるだけなくす対策を考えるべきだ。

岡山大学教授が執筆したがんの研究論文で、113カ所にわたる数値の改ざんやデータの捏造(ねつぞう)が見つかった。関係者が「前代未聞」と驚くほどだ。

悪質な不正は他にもある。宇宙航空研究開発機構JAXA)で多数の不正が見つかり、責任者の古川聡宇宙飛行士らが懲戒処分を受けた。論文を第三者が評価する査読で、福井大学の教授が「やらせ」をしたとわかり、減給処分された。こうした査読の不正は世界でも例がないという。

一連の不祥事に、日本の科学は大丈夫なのかと心配になる。まず不正防止は科学者の責任だと認識し、自浄能力を高めるべきだ。再発防止策として倫理教育や進捗管理の徹底が求められる。一方で管理が強まりすぎると現場が萎縮し、自由な発想が生まれにくい。

不正につながる環境を変える努力も重要になる。研究現場では、望む結果が出るまで実験を繰り返したり、結果が出た後に仮説を作り替えたりすることが常態化している。エスカレートすると、捏造に結びつくという。

対策として、研究の計画を事前審査する国際的な学術誌が登場した。仮説や実証方法が適切か承認を得たうえで科学者が実験し、結果の成否によらず論文は掲載される。査読の結果を公開し、透明性を高める取り組みも始まった。

現在は論文数など数値化された指標で評価される。権威ある学術誌に掲載された本数や他の科学者に引用された回数などだ。研究費の獲得や就職、昇進などに有利に働くため、科学者は論文数を増やすことに奔走しやすい。

成果主義を問題視する声もあるが、結果を出す科学者は評価されてよい。ただ、論文で問われるべきは数ではなく質だ。多様な評価体系を導入する必要がある。