1992年、テレビ東京入社。アナウンス部配属、スポーツ担当に。2014年から21年まで「Newsモーニングサテライト」の、21年春から「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターを担当
海外赴任は、人生観が変わる強烈な経験だ。世界の広さや多様性を目の当たりにし、日本という島国の価値観がいかにこぢんまりしたものかを痛感する。一方で、世界の人種のるつぼに放り込まれることで、日本人としてのアイデンティティーに目覚めたりする。
2008年、世界の金融市場を揺るがしたリーマン・ショック。あの時の血しぶきを上げるようなリストラと、そこからはい上がる米国の強さを現地で見た。帰国後に、「ニューヨーク(NY)ではビジネスの新陳代謝が速い」とか「NYは個人の力こそ企業の活力」と思いの丈を話したものだ。
しかし、「あっこさん、海外から戻ってきた人は『出羽守(でわのかみ)』と言われるんですよ」とアドバイスされた。海外から帰った人は「NYでは〜」とか「英国では〜」と、とかく海外と比較して、日本はダメだと悲観しがちだというのだ。なるほどと思い、貴重なあの経験は己の心に大切にしまうことにした。
「人類最後の発明」が生み出すもの
今、時代は変わった。そう感じる。先日、「ChatGPT(チャットGPT)」の開発担当のシェイン・グウさんという若者にオンラインでインタビューをした。「人類最後の発明」ともいわれる、米国の対話型の人工知能(AI)。米新興企業のオープンAIが公開して2カ月で、世界の利用者は一億人を記録した。驚異のスピードで続々と類似のサービスが登場し、企業や大学などでは、その導入の是非を巡って喧々諤々の様相となっている。
日本生まれのシェインさんは、「汎用性のあるAIをつくる。それを安全に人と共有し、全人類の役に立つという壮大なミッションを我々は共有している」と語る。言語の壁や、技術の壁がなくなっていく。そうなると、「日本人の持つ洗練された"ものづくりの美的意識"が生かされてくる」と続ける。最先端の技術者として、日本の未来への期待を、海外から伝えてくれた。
日本と世界を比較する時代は終わった?
45分のインタビューが終わった瞬間、場にいた全員が口々に叫んだ。「すごい、最高にワクワクした」「これがシリコンバレーで人類の未来を変える開発者の力か」。志の高さと純粋で気さくな人柄に魅了され、興奮がしばらく収まらなかった。「人類の役に立つものを」。彼が見据えているのは国や世界ではなく、人類という存在。その瞳はキラキラと輝いていた。
シリコンバレーで、サッカーで、メジャーリーグで。到底世界に敵わないと言われた舞台で今、多くの日本人が輝きを増して活躍する。彼らの存在は日本人の心を燃やし、勇気付ける。もはや「出羽守」は姿を消したのかもしれない。
最近のMy News「『人生は手動運転』を再認識した春」
新たな人生に挑戦する仲間たちがいる。「好きなことをやりたいから」。後輩たちの決断はなんともまぶしくたくましい。知人は「今しかもうできないから」と、1年かけて世界を旅するという。人生は自動運転になりがちだ。「運転する楽しさこそ、本当は忘れてはいけない」と再認識する春だった。
「佐々木明子のニュースな日々」は、国内外の経済やマーケットの動きを伝えるテレビ東京「WBS(ワールドビジネスサテライト)」のメインキャスターを務める佐々木明子さんが、金融・経済の最前線の動きや番組制作の裏話などをつづるコラムです。
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