#宇宙開発 #科学&新技術
2023/4/26 8:07 (2023/4/26 11:07 更新)
宇宙スタートアップのispace(アイスペース)は26日、月面着陸船の月への着陸について、「通信の回復が見込まれず、完了が困難と判断した」と発表した。燃料が尽きて着陸時に機体を減速できずに月面に激しく衝突し、破損した可能性がある。成功すれば民間企業として世界初との期待があった月面着陸は失敗した。
アイスペースの袴田武史最高経営責任者(CEO)は26日の記者会見で「着陸するまでのデータを取得しているのは非常に大きな達成で、次のミッションに向けた大きな一歩だと考えている」と強調した。着陸船は2022年12月に米スペースXのロケットで打ち上げられ、宇宙空間を4カ月半航行して月に到着した。26日午前0時40分ごろ、月面から高度約100キロメートルの位置で着陸態勢に入った。順調に行けば、着陸開始から1時間後の午前1時40分ごろに着陸する予定だった。
月面の撮影には成功したが、着陸はできなかった(着陸船のカメラが撮影した画像)ⓒispace
アイスペースによると、着陸直前までは着陸船との通信は確認できていたという。ただ、その後は通信が途絶えた。東京都内にある管制室で通信の確立を試みたが、断念した。
機体を十分に減速させてゆっくりと月面に降り立つ軟着陸ではなく、激しく衝突するような「ハードランディング」となった可能性が高いという。月では地球の6分の1程度の重力が働くため、月面方向に燃料を噴射して減速しながら下降し、4本の脚で着陸する計画だった。
同社が着陸時のデータを分析したところ、着陸船の燃料が切れたほか、月面に向かう速度が急速に上昇していた。月面着陸は軟着陸が最大の難関とされる。着陸船が月面に激しく衝突して故障した可能性がある。
今回の着陸船は宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが開発した小型ロボットなど7つの荷物を搭載していたが、月面に無事に届けることはできなかった。成功していればロボットは月面に放出され、動作確認や月面のデータを収集する予定だった。アイスペースは着陸船の脚に備えたカメラで月の砂を撮影し、米航空宇宙局(NASA)に所有権を販売する契約を結んでいた。
月面着陸を巡っては米国と旧ソ連、中国の3カ国の政府機関が成功した事例はあるものの、民間で成功した事例はない。19年にはイスラエルの民間団体やインドの宇宙機関がそれぞれ試みたが着陸直前に通信が途絶え、軟着陸に失敗したとされる。
アイスペースは24年に2回目、25年に3回目の着陸船の打ち上げを計画する。今回の運用で得た知見を2回目以降に生かす考えで、月面への定期輸送サービスによる収益化を将来的に目指していく。
12日に宇宙開発の新興企業としては国内初の上場を果たした。今回の着陸失敗を受けて、アイスペースは着陸後のデータ送信を条件としている一部の顧客からの売り上げについて最大約1億600万円を計上できない可能性があるとしているが、「24年3月期の業績予想を直ちに修正すべき規模の影響はない」という。