#社説 #植田和男氏
2023/4/29 2:00
総裁として初めての金融政策決定会合を終え、記者会見する日銀の植田総裁(28日午後、日銀本店)
日銀は28日、植田和男総裁の就任後初めての金融政策決定会合で、前任の黒田東彦氏が進めた大規模な金融緩和策の維持を決めた。米欧の金融情勢に不安が残り、景気に下振れリスクが根強いなか、妥当な決定だといえる。
声明では、新たに「経済・物価・金融情勢に応じて機動的に対応しつつ、粘り強く金融緩和を継続していく」と表明した。内外情勢の変化を見極め、機動的かつ柔軟な政策運営を求めたい。
今回まとめた「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では植田日銀が描く今後3年の経済・物価の見取り図が明らかになった。
政策委員予想の中央値でみた消費者物価指数の上昇率(生鮮食品を除く)は2023年度に1.8%、24年度に2.0%となり、前回の1月予想からそれぞれ0.2ポイント引き上げた。初めて公表した25年度は1.6%に据えた。
海外発の原燃料高の影響が弱まるなかで23年度の半ばにかけて上昇圧力が衰えたあと、賃上げの継続といった国内要因が少しずつ押し上げる姿だ。植田氏が重視する物価の基調的な上昇率は「見通し期間の終盤にかけて目標に向けて徐々に高まっていく」と想定するが、25年度の予想は目標の2%近くには置かず、「下振れリスクのほうが大きい」とも見込んだ。
植田氏は記者会見で「(目標接近には)時間がかかる」としたうえで「拙速な引き締めで2%を実現できなくなるリスクのほうが大きい」と語った。長期金利を低く抑える長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)がもたらす市場機能の低下などの副作用への対応を含め、政策運営のあり方を不断に検討してほしい。
会合では、日本がデフレに陥ったあとの25年にわたる様々な金融緩和策を「多角的にレビュー」する方針を示した。短期金利がゼロになって伝統的な政策が効かなくなり、日銀は試行錯誤を強いられた。黒田体制下の10年は未曽有の規模での緩和を続けたが、真の意味での物価安定はなお遠い。
過去の緩和策の有効性や副作用を検証することは、将来の金融政策のあり方を模索するうえで望ましい取り組みだ。日銀は1年から1年半程度の時間をかけると表明したが、植田氏は検証や分析の成果を随時、公表していく意向を示した。将来の緩和策の出口やその後の政策のあり方を巡る市場との対話にもつなげてほしい。