バンブーズブログ

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だから女優としても成功した…広末涼子の不倫報道を聞いて、私が「昭和の蛇女優」を思い出したワケ


2023年6月24日 12:00
PRESIDENT Online

女優・広末涼子さんと有名シェフ・鳥羽周作さんのW不倫が国民的関心事になっている。作家の岩井志麻子さんは「私は不倫に興味はないのだが、広末さんの欲深さには感心した。女優として成功したのも頷ける」という――。
広末涼子の不倫報道で私が思い出した「蛇女優」
かつて、蛇女優と呼ばれた女がいた。彼女、I子は昭和8年の生まれなので、存命ならば今年90歳になる。たぶん、もう蛇女優の面影はない。



開幕した第35回東京国際映画祭のレッドカーペットに登場した映画「あちらにいる鬼」の広末涼子さん=2022年10月24日、東京都千代田区東京ミッドタウン日比谷
先日、広末涼子W不倫が煽情的に報道されたとき、なぜか私はI子を思い出していた。女優であること、不倫をしていたこと、それしか共通点はない。ましてや、不倫の結末など決して一緒に語ってはいけないのに。

共通点の一つである女優という仕事についても、2人はかけ離れている。広末さんはごく普通の女の子から、一気に国民的アイドルに駆け上がった。スキャンダルはあったものの、それも魅力に加算され、永遠の清純派スターになった。

I子は若い頃から地元で無理矢理に反社会的組織の親分の愛人をさせられ、背水の陣で家出して芸能事務所に入り、24歳で遅咲きのデビューをする。グラマラスな肉体美も武器だったが、蛇を可愛がっているという際物ぶりも売り物にさせられた。

広末さんは何があっても何歳になっても透明感という形容を冠せられたが、I子の肉体美は最初から透明感とは無縁で、演技とともに円熟していくとも讃えられなかった。


愛人を包丁で殺す
女優になってしばらくして、同業者との間に未婚のまま子を産むが、その子はすぐ相手方に取られて別れた。広末さんは子持ちで離婚した後も、熱烈に望まれて再婚したのに。

I子は早くに女優としての限界を感じ、引退しての結婚を望んだ。広末さんはますます女優として輝き続け、家庭を持っても奔放であり続けた。そしてI子は、7年も交際し子どもまで産んだ興行師の男を刺殺した。

彼は妻子だけでなく多くの愛人もいたが、I子は結婚が無理ならせめて認知をと迫った。その争いはずっと蒸し返されていたが、その日のI子は包丁を用意するほど必死になっていた。しかし彼は例によってあっさり断った上に、お前もそろそろ次の男を見つけろ、などと言い放つ。

そこでI子は、包丁を取り出してしまったのだ。救急車で搬送されていくとき、彼は必死に救急隊員に訴えた。これは自分で自分を刺してしまったのだと。もちろんそんな嘘は通らないし、彼は間もなく絶命した。


夫も恋人も家庭も仕事も何もかも欲しい
広末さんのところは、互いの配偶者との間では揉めているだろう。不倫関係の当事者同士は反省文など出したものの、互いにまだ相手に想いがあるのは隠していない。

夫も恋人も家庭も仕事も何もかも欲しい、そして手に入れられる広末さんと、それらを手に入れられそうで入れられないI子。だが男への惚れっぽさとある種の渇望感、飢餓感は通底するものがある。広末さんも、与えられてもまだまだと欲しがり続けているのだ。

おそらくI子は愛人に子どもを認知してもらえたら、あるいは結婚してもらえたら渇望感や飢餓感は失せて満足し安定し、その後はまったく不倫などしなかったと思う。

けれど広末さんは、もし今のお相手と再婚できたとしても、必ずやまた次の不倫をするのではないか。与えられても与えられても、まだまだと決して満足しないところは、実は広末さんはI子より業も欲も深い。そこが広末さんの、女優として成功した証でもあろう。


なぜ夫を殺された妻は許したのか
さてI子は殺人罪で逮捕されるが、映画関係者が減刑嘆願書を出しただけでなく、殺された夫が「自分が悪かった」と息絶えるまでI子をかばったと聞いた本妻が、「そこまでうちの人はI子さんを好きだったんだから」と、寛大な対処を願い出たという。

結局、I子は殺人なのに数年後には仮釈放された。出所後は芸能界とは一切の縁を切り、一般人と結婚して平穏に主婦として暮らしたと伝えられている。この事件は昭和44年に起きたので、私も後に本などで知ったのだが、改めてネットで検索しても、終盤の夫婦の言動に大きく惹きつけられる。

 


本当のところなど想像するしかないし、想像しても当たってはいないとわかった上で書かせてもらうが。愛人の男もその本妻も、美談に落とし込める。

最初は私も、彼は本当にI子を好きだったんだと心打たれ、最後の最後にそれを見せたのは優しいと惚れた。彼の本妻もまた、実に立派な奥様、慈悲と愛情深い人だと感心した。しかし次第に、彼は本当にI子を愛していたからかばった、本妻も真に夫を思いやってI子にも慈悲を向けたのではない気がしてきた。

2人とも、一番可愛いのは自分。愛人だった男は刺されたとき、こんなに女を惚れさせた俺様は格好いい、さらに格好いい男伝説を作るため、そんな台詞を吐いたのではないかと私はにらんでいる。



※写真はイメージです 写真=iStock.com/kieferpix
真実は本人たちしかわからない
本妻の場合、「本妻とはかくあるべし」「良妻賢母の鑑とは」という時代の縛りもあるはずだ。本妻もまた夫を赦し、夫を殺した愛人に寛大な気持ちを表明することで、世間から「なんと出来た奥様だ」と感嘆されたかったのではないか。

いや、これは下衆の勘繰りでしかなく、本当に彼はI子をかばいたかった、本妻も心からそう思っていたというのもありだが、彼らには私好みの物語を求めてしまう。彼はひょっとしたらモテモテ人生だったのに、常に女に心底から愛されていないといった不安があり、刺されたとき「これほど俺は愛されていた」という嬉しさのあまり、そんなことを口走ってしまったのではないか。

 


本妻は、あまり好きな言葉ではないがマウントを取りたかったのかもしれない。

「可哀想ね、ただの遊びだけの愛人で捨てられて。私は大事にされてる本妻、あなたよりずっと立場も身分も上なの。だから憐れみをかけてあげる。とことん私の勝ちね」

繰り返すが、すべては私の想像、妄想である。広末さんと不倫相手のそれぞれの配偶者が、かつて殺された男の本妻みたいになるかどうかもわからないし、どんな態度や対処であれ、「それが正しいのだろう、当事者には」と思うしかない。


遺伝子には逆らえない
そういう私本人は、不倫という行為そのものには興味も解釈も持たない。自分が当事者になろうが他人がやろうが関係ない。そこから派生する私好みの物語にのみ惹かれる。だからこの原稿の依頼が来たとき、仲良しの漫画家である西原理恵子に「不倫についてどう思う」と相談してみた。

ご存じ、彼女がダーリンと呼ぶのは高須クリニック院長だ。

「高須かっちゃんが『世界中のカップルが浮気をしなければ、性病は絶滅する一代病理だ。しかし生物は、自分の子孫をたくさん残そうとする遺伝子命令で動いている。それに乗っかったウィルスが一番賢い』といってるよ」と聞かされ、なるほどと腑に落ちたし戦慄もした。

 


とはいえ高須かっちゃんも理恵子も、浮気はしていない。遺伝子には逆らえないが、倫理や規範や理性で抑え込めはするのだ。

この意見を補強してくれたのが、こちらも仲良しの書道家、山﨑秀鷗先生だ。

「不倫は文化といって炎上した人もいたけど、不倫、浮気は本能なの。昔、オナニーも精神の病気だといわれたのよ。宗教的な理由で禁じられたこともあったし、男はやるけど女はやらない、と今もって信じてる人がいるほどよ。同じく同性愛も、病気扱いされた時代があった。いつか治って異性を好きになれるなんて、真顔でいってくる人もいたし。さすがに今の時代、そう信じる人も、面と向かって当事者に、あんたは悪いことをしていると責める人も減ったけどね」

そういえばうちの父方も母方も祖父母は、結婚式の日に初めて相手を見たといっていた。結婚とは家と家の結びつきで、当時はそれが珍しいことではなく、恋愛結婚というものがふしだらな「野合」で、まともな家の者がするものではないといわれていたのだ。

遺伝子や本能にも動かされるが、時代によっても人は操作される。

さて改めて若き日のI子の妖艶な姿を眺め、もし広末さんが透明感あるルックスではなく、こんなだったらと想像してみた。……逆に、ここまで叩かれてないかもしれない。

[作家 岩井 志麻子]