[社説]治安の悪化を食い止めよ
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2023/8/6 19:00
5月には東京・銀座の高級腕時計専門店に男らが押し入る事件があった=共同
日本の治安が揺らいでいる。「闇バイト」による強盗や特殊詐欺が後を絶たず、人々の体感治安も悪化している。社会全体で危機感を共有し、犯罪防止に本腰をいれたい。
警察庁がまとめた今年上半期(1〜6月)の刑法犯認知件数は約33万件で、前年同期から21%増えた。殺人や強盗などの重要犯罪は同16%増の5137件。特殊詐欺の件数や被害額も増えている。
刑法犯は戦後最悪だった2002年の約285万件をピークに減少が続いてきた。だが22年は約60万件で20年ぶりに増加した。今年は前年を上回るペースだ。
新型コロナウイルスによる行動制限緩和の影響とみられるが、理由はそれだけではないだろう。
「ルフィ」などと名乗る広域強盗の指示役らが逮捕された後も、同じような事件が起きている。高額報酬を餌に勧誘し、本人や家族に危害を加えるなどと脅して犯罪に加担させる。互いに本名を知らず、集合離散を繰り返す。こういったグループがいくつも存在する可能性がある。
警察当局は「闇バイト」犯罪の専従班を設けるなど捜査体制を強化する方針だ。末端の実行役だけを検挙しても組織を壊滅させることはできない。犯罪収益の流れを追及するなどし、中心人物の特定に全力を尽くしてほしい。国外に拠点を移すグループもある。海外当局との連携強化も重要だ。
若者らが安易な気持ちで勧誘に応じないよう啓発や教育に力を入れるとともに、ネット上の有害情報を監視、削除することも必要だ。人工知能(AI)などの技術も積極的に活用したい。
安倍晋三元首相に続き、岸田文雄首相が襲撃された事件も暗い影を落としている。いずれも政治家を狙ったローンオフェンダー(単独攻撃者)による犯行だった。
再発防止のためには犯罪の予兆をつかみ、未然に防ぐ取り組みが欠かせない。警察だけでなく、行政や地域を含めた防犯力の底上げを急ぎたい。