バンブーズブログ

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大谷翔平、靱帯損傷どう乗り越えるか 二刀流継続が焦点


 
スポーツライター 丹羽政善
#拝啓 ベーブ・ルース様 #MLB #スポーツ
2023/8/28 5:00
 
23日、レッズとのダブルヘッダー第1試合の二回途中、無失点で降板する大谷(アナハイム)=ゲッティ共同
8月23日、レッズ戦の二回1死一塁。 クリスチャン・エンカーナシオンストランドに対して投げた2-2からの5球目がファウルになると、大谷翔平エンゼルス)は、ダッグアウトに向かって小さく首を振った。

異変のサインである。

監督、通訳、トレーナーの3人が駆けつけると、大谷は右肘の痛みを訴えた。ほどなく、監督だけを残し、大谷ら3人がマウンドに背を向けて歩き始めた。

それは、復帰に向けた長い道のりの第一歩となるのか。

8月9日の登板後に右腕の疲労を訴え、15日に予定されていた先発を自ら訴えて回避した大谷。中13日を空けてのぞんだ23日のレッズ戦の初回は、打者3人に対し、2三振という立ち上がり。その裏の1打席目、初球を右翼席中段へ運び、この時点では、何もかもがうまくいっているように映った。

予兆はあった。スイーパーの球速が初回から80マイル(約129キロ)を超えない。初回は4球投げて、80マイルに達したのは1回だけ。2イニング目に入り、最後の打者にはスイーパーを2球投げたが、77.2マイルと76.1マイル。スイーパーの今季平均球速は83.6マイルなので、キロに直せば、10キロ以上も遅かった。

もっとも、試合後の会見でフィル・ネビン監督は、「痛みはないようだ。前回感じたような疲労だろう」と肩肘への懸念を否定。その日はダブルヘッダーだったが、2試合目のスタメンに名を連ねると、多くを安心させている。実際にはしかし、1試合目の降板後に検査を行い、2試合目の前には内側側副靭帯損傷が、大谷本人にも伝えられていた。

 
レッズとのダブルヘッダー第1試合の二回途中、マウンドで大谷(右)に話しかけるエンゼルスのネビン監督=AP
「それでも、(第2試合に)出るといったのだから、彼のメンタルの強さを思い知らされた」とは2試合目の試合後に会見を行ったペリー・ミナシアン・ゼネラルマネジャーGM)。「驚きを超えた」

すぐに今季の残り試合は登板しないこと、しばらくは指名打者として出場する方針が決まったが、それは2018年も同じ。あのときは、トミー・ジョン手術(側副靱帯再建術)を受けると決めた日にテキサスでホームランを打ち、さらに翌日、もう2発放った。

今後、将来の再発を防止する上でも、原因を探ることになる。中5日での先発に無理はなかったか。もう少し、定期的に休養を挟むべきだったのか。だとしたら、どの程度必要なのか。最適なタイミングは? スイーパーの多投による肘への負荷はどの程度なのか。

多くが疲労と関連するが、大谷は右中指のけいれんで降板した8月3日の試合後、「一番は疲労じゃないかな」と、珍しく疲れを認めた。ただあのときは、試合を休むことも必要かと聞かれると、「みんな、いっぱいいっぱいでプレーしている。休める試合といったらあれですけど、そういう試合はもうないと思っています」と否定している。その時点ではまだ、チームはギリギリのところでポストシーズン出場を争っていた。無理をせざるを得なかった。

 
23日のレッズとのダブルヘッダー終了後、記者会見するエンゼルスのミナシアンGM。大谷が右肘靱帯を損傷していることを明らかにした=共同
ところが、その次の登板後、「休めそうなら、休むということも仕事として大事かなと思います」と、一転して休養を示唆している。実際、15日前後に予定されていた次回登板を、自ら申告して回避した。

けいれんの症状は、7月終わりからあり、27日のダブルヘッダーの第1試合で完封し、2試合目に2本塁打を放ったあと、左腰のけいれんで途中交代。翌28日も1打席目に本塁打を放ったが、試合途中、両足ふくらはぎのけいれんで途中交代を余儀なくされた。

7月終わりからたびたびけいれんの症状が出ており、さらに大谷が疲労を口にした時点で、チームが検査をするなり、ストップをかけ、強制的に休ませていたらどうなっていたのか――。ミナシアンGMによれば、「検査を提案したものの、大谷側が拒否した」とのことだが、タラレバは尽きない。

多くのトミー・ジョン手術を執刀し、障害予防にも取り組むベースボール&スポーツクリニックの馬見塚尚孝さんに、疲労が負傷を引き起こす関連性についてうかがうと、「もちろん、関係があると思います」と肯定した。

「しかし、それだけではありません。投球数、投球強度、メカニック、個体差などが絡んできます。それを私は、『投球障害リスクのペンタゴン』として分類していますが、疲労を含むコンディショニングは、投球障害リスクを考える上で、その一要素です」

 
3日のマリナーズ戦で、大谷は右手中指がつったことを理由に4回無失点で降板した(アナハイム)=共同
投球数はどうか。投球強度はどの程度なのか。それぞれのバランスを客観的に捉えることで、リスクを把握し故障を未然に防ぐ――。エンゼルスも投球数、メカニック、肘にかかる負荷などをモニターしてきたが、疲労に関しては、大谷の肌感覚任せ。ネビン監督は、「選手がけがをしたとき、常に『何か違う対応ができたのでは』と考えるもの。みんな疑うかもしれないが、今回に関して、違うやり方はなかった」と、自分たちの責任を否定したが、やはりなにか防ぐすべがあったのでは、との声がくすぶる。

とはいえ、もはや時計を巻き戻すことはできない。セカンドオピニオンを求めるなど、並行して今後の模索が始まっているが、選択肢そのものは2つ。手術をするのか。保存療法で復活を目指すのか。それは損傷の程度次第でもあるが、大谷の場合、今オフにフリーエージェント(FA)となるだけに、少々複雑だ。複数年の契約が残っているようなケースとは状況が異なる。

ある代理人に意見を求めると、「保存療法を選択すれば、契約前のメディカルチェックが複雑になる。いっそのこと、手術をしてしまったほうが、その後のスケジュールも描けるので、チームも契約しやすい」と話す一方で、「2度目の手術は難度が高く、復帰確率が下がるとされる。また、復帰までの時間が1回目よりもかかるというデータもある」とリスクも指摘した。

ちなみに過去、手術を複数回受けたのは、自身も1974年にトミー・ジョン手術を受けたベースボール・アナリストのジョン・ロウゲル氏が作成しているリストによると、25日段階で148人。同リストによると、トミー・ジョン手術を受けたのは2344人なので、約6.3%。

決して多くはないが、最近は、若い時期に1回目の手術を選択するケースが増えているだけに、増加傾向にあるよう。今年だけでも、ジェーコブ・デグロム(レンジャーズ)、シェーン・マクラナハン(レイズ)というオールスタークラスの投手が、2度目の手術に踏み切ったが、昨年、2度目の手術を行ったウォーカー・ビューラー(ドジャース)はまもなく復帰予定。柳賢振(ブルージェイズ)は先日、2度目の手術からの復活を果たしている。

馬見塚さんによると、「復帰確率が10%程度下がり、復帰が通常よりも、半年遅れるデータがある」とのこと。ただ、「それはあくまでも平均値」だという。

2度目の中には、やはり大幅に復帰が遅れる選手もいる。レッズのテイジェイ・アントンは21年8月27日に2度目の手術に踏み切った。2年がたったが、まだマイナーにいる。かつてアスレチックスのエース格だったジェロッド・パーカーは、メジャー復帰を断念し、引退した。サンプル数が少ないだけに、彼らのケースが平均値を悪化させる。

2度目の手術の難度に関しては、「1回目の術式次第」と馬見塚さんは指摘する。「でもいまは、(執刀医の)技術もあがり、さほど心配はないのでは」。復帰までの期間に関しても、「リハビリが順調なら、通常と同じような期間で戻ることが期待できる」とのこと。

よって、18年と同じ10月上旬に手術を行えば、打者としての復帰は来年5月との見通しは立つ。投手に関しては前回、20年7月27日に復帰。21カ月かかったが、2回先発しただけで、再び右前腕を痛め、本格復帰は21年に持ち越しとなった。

 
23日のレッズとのダブルヘッダー第1試合の一回、先制の44号2ランを放つ大谷=共同
その前例をベースとするなら復帰は2026年の可能性もあるが、「新型コロナウイルスの感染拡大で不規則なシーズンだったため、必要な最終調整ができなかった。よって、さほど参考とはならないかもしれない」と馬見塚さんはいう。

確かにあのときは、急きょ開幕が決まったこともあり、マイナーでリハビリ登板をする機会もなかった。出力を徐々に上げる通常のリハビリができれば、同じことを繰り返すこともなく、また、もう少し早い復帰も見込めるのでは――というわけだ。

いずれにしても、あとは本人の決断次第だが、大谷のこれまでの言動から判断するなら、二刀流をあきらめるとは思えない。つまり、手術に踏み切るのではないか――より高みを目指して。

となると、しばらくはマウンドを離れることになるが、2025年シーズンには、再び二刀流として復活することを、本人は疑っていないはずである。