バンブーズブログ

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[社説]石油危機の経験を今こそいかせ


 
 
#社説 #オピニオン
2023/10/8 2:00
 
石油危機は高度経済成長の転換点になった(緊急入荷したトイレットペーパーに並ぶ人たち、1973年11月)
今年4月、大阪・千里中央駅前のスーパーが、入居する商業施設の老朽化に伴い閉店した。1973年の第1次石油危機の際、トイレットペーパーの買い占め騒動はこのスーパーで始まった。

千里丘陵は戦後の高度経済成長の下で、大阪のベッドタウンとして開発が進んだ。パニックがニュータウンで始まった意味は小さくない。石油危機は高度成長の転換点になったからだ。

高度成長の転換点

アラブとイスラエルが戦火を交えた第4次中東戦争から6日で50年が経過した。戦争にあわせてアラブ産油国は石油戦略を発動し、消費国は供給途絶の恐怖に震え上がった。中東産の安い石油に依存してきた日本は構造転換を迫られた。石油の調達先を中東以外に広げる脱中東、エネルギー利用を石油以外に広げる脱石油、徹底した省エネルギーに着手した。

それから半世紀。ロシアのウクライナ侵攻と、加速する脱炭素の潮流が、世界にふたたびエネルギー転換を迫る。

ウクライナ侵攻は幾重もの分断をあらわにした。日米欧の陣営とロシア・中国の陣営の対立は、自由貿易を前提としてきた石油や天然ガスの流通を分断した。エネルギーの価格高騰と、なりふりかまわぬ争奪戦は、グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国と先進国の亀裂を広げた。

半世紀前に危機の震源となった中東では、米国の存在感が低下し、広域経済圏構想「一帯一路」をてこに中国が影響力を広げる。エネルギー地政学の構図が急変するなかで、エネルギー安全保障を重視する流れが強まった。

一方、頻発する異常気象を前に気候変動対策の加速は待ったなしだ。11月末に開く第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)のスルタン・ジャベル議長は「エネルギー安保と脱炭素、経済成長を同時に実現しなければならない」と指摘する。

狭く、険しい道だ。日本も脱炭素と安定供給の両立は絶対条件だ。50年に温暖化ガス排出の実質ゼロを実現するには、1次エネルギーの8割を超す化石燃料への依存を下げなければならない。

まず、太陽光や風力など再生可能エネルギーの導入最大化だ。洋上風力発電や、住宅や建物の屋根に置く太陽光発電など、あらゆる適地を掘り起こす必要がある。

脱炭素電源である原子力発電も安全を前提に活用すべきだ。岸田文雄政権は原発の建て替えなど原発政策の転換に踏み出した。ただし、国民の理解を得て原発を使うためには、使用済み核燃料の最終処分のような積み残しの課題に道筋をつけることが条件だ。

省エネをもう一段深掘りすることも忘れてはならない。再生エネや原発を最大限導入しても、エネルギー供給を賄えない場合、燃焼させても二酸化炭素(CO2)を出さない水素やアンモニアを燃料に使う火力発電や、排出したCO2を回収して地中に貯留するCCS技術も必要になる。

50年前の経験を今こそ生かすべきだ。石油危機後の構造転換は省エネや原発天然ガスの導入など成果を上げたが、時間の経過とともに危機感を忘れてはいまいか。特定のエネルギーに依存せず、自給率を高める。調達先を分散し、供給国との関係を強化する。供給途絶など非常時に備え備蓄やリサイクルに取り組む。50年前に突きつけられた原則に立ち返り、エネルギー戦略を再構築するときだ。

脱炭素へ全ての手段を

再生エネや原発、脱炭素火力のどれかではない。あらゆる手段を動員し、コストを最小化する、脱炭素時代のエネルギーミックスを見つけなければならない。

エネルギー転換に踏み出した世界で起きているのは、脱炭素時代のエネルギー覇権をかけた国家と企業の大競争だ。米政府は脱炭素技術の導入や開発支援に3690億ドル(約55兆円)を投じる。欧州連合EU)は環境対策が十分でない国からの輸入に事実上の関税をかける国境炭素調整措置(CBAM)を導入する。

保護主義的な様相を強める国家のぶつかり合いを、日本は座視するわけにいかない。太陽光パネル風力発電機、電気自動車(EV)用の電池などの脱炭素技術や素材、水素やアンモニアのような脱炭素燃料を海外に依存せざるをえないからだ。

《民主主義と自由貿易の価値観を共有する国々と連携し、供給網の確保に万全を期す必要》がある。《脱炭素時代が到来してもエネルギー安保の重みは変わらないこと》を肝に銘じることが大切だ。