#中南米 #国際 #社説
2023/11/27 2:00
アルゼンチンのミレイ次期大統領は経済ドル化や中央銀行廃止など過激な政策を掲げる=ロイター
南米アルゼンチンの大統領選で急進右派のミレイ下院議員が勝利した。12月10日に就任する。
少数野党で議員歴2年と経験は乏しいが、大胆な改革を訴えて既存政治に不満な民意の支持を得た。ただ経済のドル化や中央銀行の廃止といった過激な公約も目につく。すでに苦境にある経済が一段の混乱に陥らないか心配だ。
主要3候補の接戦となった大統領選は、10月の1回目投票で主要野党が担ぐ中道右派のブルリッチ元治安相が脱落した。2位だったミレイ氏は19日の決選投票で右派票を積み増し、与党で中道左派のマサ経済相を逆転で破った。
同国は景気低迷が長期化する。干ばつや通貨安で10月の消費者物価指数は前年の2.4倍に達した。変革を求める声が政界の門外漢を自任するミレイ氏を選んだ。
自由至上主義の経済学者であるミレイ氏は、いまの左派政権下で悪化した財政の再建へ公共支出の大幅減や国営企業の民営化を唱える。昨年、国際通貨基金(IMF)に支援を仰いだ際の条件だった歳出削減の進展が期待できよう。
半面、過激な公約は実現に疑問符がつく。自国通貨としてペソに代わり米ドルを使う政策は、南米2位の経済規模に見合う外貨量を確保できるか見通せない。中銀を廃止すれば、自前の金融政策を放棄するだけでなく、金融機関が破綻に直面した際の「最後の貸し手」が不在になってしまう。
実行には憲法改正が必要との指摘もある。ミレイ氏率いる政党は上下院とも1割強の議席しか持たない少数与党となる。議会での透明性ある審議を通じて、現実的な方策を探るべきだろう。
外交では現政権の中国依存から米国重視へ転じ、中国の後押しで決まっている来年1月の「BRICS」への加盟も拒む構えだ。
約6万5千人の日系人の存在もあり、日本はアルゼンチンと伝統的に友好関係にある。食糧生産大国でリチウムなどの希少資源も豊富だ。同国経済の迷走が深まらぬよう支援を強化したい。