バンブーズブログ

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[社説]トルコは民主主義体制の立て直し急げ


 
 
#社説
2023/5/29 19:05
大統領府に集まった支持者に手を振るエルドアン氏。野党連合の善戦は強権的な手法への批判の強まりを映している(28日夜、アンカラ)=小林健撮影
トルコで28日行われた大統領選の決選投票で、現職のエルドアン大統領が再選を決めた。分断が進む世界で独特の地位をもつトルコの役割には期待が大きいだけに、近年のエルドアン氏の強権化が懸念される。国内の民主主義体制を立て直し、経済再建や欧米との関係修復を急いでほしい。

20年にわたりトルコを率いたエルドアン氏の統治はさらに5年間続くことになる。エルドアン氏は憲法改正などを通じて自身への権力集中を進めた。司法への介入やメディアへの影響力を行使して反体制派への締め付けを強めた。

経済に大きな打撃をもたらしているのが金融政策への介入だ。経済理論の常識に反して、インフレには金融の緩和が効くとする考え方を取り、中央銀行金利の引き下げを強いた。通貨リラが暴落し、リラ建ての輸出は伸びたが、物価高は加速した。

混乱を収拾するためには、傷ついた民主主義の各種制度を立て直す必要がある。法の支配の徹底だけでなく、中央銀行の独立や言論の自由、女性やマイノリティーの権利保護など広い意味での民主的な制度の強化が求められる。

野党連合が決選投票まで持ち込む善戦をみせたのは、強権的な統治に国民の不信感が強まっていることを示している。

トルコは北大西洋条約機構NATO)で唯一のイスラムの国で、米国に次ぐ兵数を持つ。シリア内戦に伴い国を追われた300万人以上の難民を受け入れた。

ウクライナ危機では黒海経由で穀物を輸出する「回廊」をめぐる合意でウクライナとロシアの仲介役を果たした。エルドアン氏はロシアのプーチン大統領と対話のチャンネルをもつ、民主主義陣営では数少ない存在だ。将来のウクライナ停戦交渉で一定の役割を果たす場面があるかもしれない。

半面、ロシアへの制裁に加わらず、北欧のNATO加盟問題などで欧米との亀裂が深まっている。欧州市場に近く、本来は企業によるサプライチェーン(供給網)再編の恩恵を受けられたはずだが、経済混乱と外交の孤立で投資家の信頼を失った面がある。

トルコは伝統的に親日的な国だ。日本は欧米と協力し、エルドアン体制がこれ以上、強権に傾かないよう歯止めをかける必要がある。トルコの長年の悲願である欧州連合EU)加盟も実現に向けて後押しすべきだ。