バンブーズブログ

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[社説]孤立からの凶行防ぐ対策を


 
 
#社説 #オピニオン
2024/1/26 2:00
 
公判では被告の困窮や孤立の境遇も明らかになった(25日、京都アニメーション放火殺人事件の判決公判が開かれた京都地裁)=代表撮影・共同
36人が亡くなった2019年の京都アニメーション放火殺人事件で、青葉真司被告に死刑判決が言い渡された。

犯罪史上まれにみる凄惨、凶悪な犯行である。責任能力が最大の争点だった。裁判員が長期にわたり難しい審理と向き合った末の結論を、重く受け止めたい。

被告は動機について「小説のアイデアを盗まれた」などと説明した。25日の京都地裁判決はこうした妄想の存在を認めながら、責任能力はあったとして「死刑を回避する余地はない」と断罪した。

裁判で被告の心の闇を全て解明できたわけではないだろう。それでも公判で明らかになった被告の境遇などから、再発防止の手掛かりを探ることは重要だ。

被告は強盗などで複数回の逮捕歴があり、精神障害の診断を受けていた。一人暮らしで生活保護を受給し、一時は訪問看護を受けたものの事件前に応じなくなっていた。服薬もやめていたという。

判決は被告を「支援してくれる人がいたのに、周囲に責任を転嫁し自己中心的だ」と厳しく非難した。一方で背景には生活困窮や孤立があったとも言及した。

秋葉原殺傷事件や安倍晋三元首相銃撃事件など、不遇な環境で憎悪を募らせた事件は近年少なくない。一義的な責任は罪を犯す本人にあろう。他方で疎外感を抱く人を社会にいかに包摂するかや、必要な医療や福祉をどう届けるかも重い課題になってきている。

今春には孤独や孤立を「社会全体の課題」と明記した孤独・孤立対策推進法が施行される。問題を抱える人を支援する団体でつくる「地域協議会」の設置などを定める。こうした仕組みも最大限活用していきたい。再発を防ぐ議論を社会が重ねていくことが、犠牲者への追悼にもなるはずだ。

遺族や負傷した社員らにとって判決は一つの節目になろう。ただ奪われた家族、かつての日常は戻らない。時間がたって悲しみが深まる例もある。被害者支援にも引き続き心を配る必要がある。