バンブーズブログ

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[社説]株式市場を生かす時代の始まりに


 
 
#日経平均史上最高値 #社説
2024/2/22 19:00
 
日経平均株価は34年ぶりに最高値を更新した(22日、東京都中央区
22日の株式市場で日経平均株価が3万9098円をつけた。バブル期の頂点である1989年末の3万8915円を超える最高値となり、「失われた30年」といわれた長期の低迷を抜け出た。ここをゴールとせず、日本が株式市場を健全に生かしていくスタート地点にしなければならない。

株価は企業の稼ぐ力を映すものだ。一時は7000円台まで下がった日経平均が上昇基調を取り戻してきたのは、企業が収益力を高めたからにほかならない。

世界で稼ぐ企業けん引

東証プライム市場に上場する企業の2024年3月期は全体の純利益で43.5兆円を見込む。3期連続の最高益だ。日経平均換算でみれば、89年当時の4倍の純利益をあげる力をつけている。

株式市場に映る日本経済のリード役の顔ぶれは変わった。89年末はNTTや銀行が時価総額上位に並んだが、今はトヨタ自動車ソニーグループなど世界で稼ぐ企業が全体をけん引する。

米国で人工知能(AI)向け半導体を手掛けるエヌビディアが急成長しているように、日本でも東京エレクトロンなど半導体関連企業が上位に顔を出す。センサーのキーエンスも高い評価だ。

大胆な事業の再構築に成功する企業が出てきたのも見逃せない。製造業最大の赤字を経験、上場子会社をなくし世界で勝てる事業に集中した日立製作所が代表だ。

日本型経営の課題だったガバナンス面でも改革が進んでいる。生え抜きで固めるのではなく、社外取締役が入り外部の視線で経営を監督する。資本効率を意識し、持続的な成長を求める株主の声が企業に届きやすくなってきた。

かつては株式を企業同士で持ち合う比率が50%を超えたが、今は10%強だ。代わって外国人が30%を保有する。物言わぬ株主に経営者が守られた時代は終わった。

非効率な経営にはアクティビスト(物言う株主)が改革を求め、一般の株主にも賛同が広がる。敵対的な買収も起き始めた。東京証券取引所が企業にPBR(株価純資産倍率)の向上を要請したことも経営を刺激している。

日本がデフレを脱するなら変革はもっと前に進むのではないか。そう感じる海外投資家が日本株を再評価したことが株高が加速した背景にある。日経平均の上昇率は22年末に比べ50%、23年末比で17%と世界でも際立つ。短期的な過熱感はあるものの、企業業績などの裏づけを伴っており「バブル」とは様相が異なる。

地政学的な変化も指摘できる。米中対立などが世界の供給網に再構築を迫り、半導体関連をはじめ日本企業の存在感を押し上げている。日本たたきが広がった90年代までとは逆の構図といえる。

一方で34年間で世界とは大きく差がついた。米ダウ工業株30種平均はこの間で14倍になった。マイクロソフトとアップルの時価総額は2社で東証全体に匹敵する。現金に偏ってきた家計の金融資産の伸びも鈍い。

ここから問われるのは株式市場本来の機能を生かすことだ。

自己資本利益率ROE)といった経営効率でみれば日本はなお世界に後れをとる。コスト削減頼みでなく、将来の成長へ戦略的に資本を使いたい。新たなイノベーションに設備投資や研究開発は欠かせず、着実な賃上げにも取り組むべきだ。株高を生かしたM&A(合併・買収)も選択肢だ。

新陳代謝も必要だ。新たな企業がもっと生まれ、調達資金でさらに大きくなる土壌を整える努力がいる。時価総額上位に次の主役が続々と現れる市場にしたい。

家計にも広く恩恵を

そうした株式市場の恩恵が家計に広がってこそ意味がある。新しい少額投資非課税制度(NISA)で投資は身近なものになった。市場に向き合う知識を得られる金融教育が大切だ。資産運用会社は投資先と対話し価値向上を引き出す役目を果たしてほしい。一連の歯車がかみあうことにより本物の資産運用立国が実現する。

日本は日銀が金融政策として株式の上場投資信託ETF)を大量に買い入れた。大株主が中央銀行という世界でも異例のひずんだ構造に今後どう手を打つか、議論を始めねばならない。

34年で世代の入れ替わりが進んだ。投資は損をするものと感じる世代から、投資は報われると期待する世代への移行だ。

この先も持続して富を生む健全な株式市場に育てたい。株主や従業員や顧客などすべての利害関係者の視線が長期的にそろう市場。それが次に目指すべき姿だ。