バンブーズブログ

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[社説]中国は過度な「国家安全」重視を見直せ


 
 
#中国全人代 #社説
2024/3/11 19:05
 
11日の中国・全人代閉幕式に出席した習近平国家主席=ロイター
閉幕した中国の全国人民代表大会全人代)で目立ったのは、随所に登場した中国独特の総合的な国家安全という考え方だ。習近平国家主席がトップの現体制は、範囲が曖昧な概念を強調しすぎるため、外の世界との正常な資本、人的な往来を阻害している。中国は自身の経済を傷付ける過度の国家安全重視を早急に見直すべきだ。

過度な安全重視は、伝統的な安全保障分野でも明らかだ。今年の中央政府分の国防予算は、政府経済成長目標の5%前後を大幅に超す前年比7.2%増である。伸び率は3年連続で7%を超えた。

中国経済の低迷で国民生活が苦しいなか、軍備拡大を優先する姿勢には疑問が多い。これは台湾の武力統一を否定しない中国の姿勢とも絡む。中国がアジア太平洋地域で現状変更を狙う布石ではないかという強い警戒感が出ているのは理解できる。

日中両国の政治・経済関係、学術・文化面の人的往来でも中国側の過度な安全重視が正常な交流を阻む。中国でアステラス製薬の幹部社員が反スパイ法違反の容疑で拘束・逮捕されたが、詳しい理由説明はなく、解決のメドも立たない。多くの日本人は商用で中国を訪れるのをためらい、日本で中国語を学ぶ学生数も減少している。

中国大陸への外資導入の窓口として機能してきた香港への影響も大きい。香港国家安全維持法が施行済みの香港では長年、市民が強く反発してきた国家安全条例案の審議も始まった。

国家機密の窃取やスパイ行為、外国勢力による香港への干渉などを禁じる内容で、社会統制の強化を懸念する声が根強い。外資対中投資は既に激減している。窓口である香港への一層の締め付けは、これに拍車をかけかねない。

安全重視の考え方は、微妙な問題に絡む全人代議論を避けるところにも現れた。昨年までの全人代は、新型コロナウイルス感染症対策などを理由に会期や討論時間を短く限ったという説明だった。今年はコロナ対策が大筋終了したのに、形がコロナ前に戻ることはなかった。

20世紀末の全人代では、2週間前後の十分な会期が設定され、多面的な議論もあった。現在は半分に過ぎない。中国首相が全人代後に登場した恒例の記者会見も今年から中止された。国民への情報公開、丁寧な対外説明という点でも大幅な後退と言わざるをえない。