[社説]この試算で育児支援の議論は深まらない
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2024/4/1 19:05
政府が示した試算は育児支援を議論するデータとして不十分だ(参院予算委で答弁する加藤こども政策相、3月25日)
岸田文雄政権の育児支援策を盛り込んだ子ども・子育て支援法改正案が2日の衆院本会議で審議入りする見通しだ。給付と負担のあり方をどうするかなど、与野党の活発な論戦を期待したい。
最大の焦点は児童手当や妊婦支援給付金などの財源として2026年度の導入を目指す「子ども・子育て支援金」の是非だろう。
医療保険料に上乗せする形で国民から広くお金を集める。総額は26年度の約6000億円から段階的に増やし、28年度には約1兆円にするという。
育児支援の拡充に財源が必要なのは当然である。政策の理念や必要性、期待する効果などを丁寧に説明し、国民負担への理解を求めるのが筋だ。ところが政府の姿勢は負担の議論に真摯に向き合っているようにみえない。
聞こえの良い給付拡充案ばかりを説明されても、育児支援策の是非は判断できない。支援のために誰にどんな負担を求めるのか。その情報が示されなければ、制度の実像は見えてこないはずだ。
それなのに、こども家庭庁が3月29日に公表した支援金制度による負担額の試算は、極めて限定的な内容にとどまっている。
健康保険組合や国民健康保険、後期高齢者医療制度など、国民が加入する医療保険別に加入者や被保険者の1人あたり負担額を示しただけで、所得水準によって負担額がどうなるのかが分かる試算はほとんど示されていない。
給付と負担を一体でみたときに子育て世帯にどんな受益がある制度であり、それが世帯所得によってどう変わるのか。支え手となる人たちの負担は単身や夫婦2人など世帯類型や所得別にどうなるのか。こんな基本的な情報をなぜ示さないのか不思議でならない。
これでは、何か都合の悪い情報を隠しているとの批判を受けてもおかしくない。
支援金制度を巡り首相が繰り返す「実質的な負担は生じない」という主張も国民の不信を高めかねない。「歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で(制度を)構築していく」という説明だが、負担額から賃上げ分を除いて「実質負担ゼロ」とする理屈に国民は納得するだろうか。
民間の成果である賃上げまで持ち込んで増税批判をかわす逃げの姿勢ではなく、正面から堂々と国会審議に臨んでほしい。