[社説]「ソフトの車」は世界を視野に育てよう
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2024/5/31 2:00
トヨタ自動車が開発を進める新しい車載の基盤ソフト(OS)「アリーン」について話す佐藤恒治社長(2023年10月)
自動車のソフトウエア分野の開発競争が世界的に熱を帯びている。人工知能(AI)に代表されるように急激な技術進化が起きている領域であり、日本企業は米国や中国と比べて得意とは言えない。先端技術の開発だけでなく人材育成や社会への実装など包括的な視点で、日本勢がイノベーションを推進するよう期待したい。
車作りを巡っては、いわゆる「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」への転換が世界的な潮流になりつつある。
直訳すれば「ソフトが定義する車」となる。車の開発段階に始まり、通信を使った車両ソフトの更新や自動運転、ライドシェアなどの車両サービスといった広範な分野に及ぶ。
これは自動車業界に抜本的な構造転換を迫る。モノからソフトに車の付加価値が移る時代の到来である。アクセンチュアによると、2040年には自動車産業全体の収益の40%をデジタル分野が占めるという。
経済産業省は30年から35年にかけてSDVで日本勢が世界で3割のシェアを握るための戦略を立案した。メーカーごとのソフト連携を促すなど、政府の後押しが不可欠であることに異論はない。
そのうえで注文を付けるなら、第一にソフト主導の新たな産業構造をつくるにはグローバルの視点が欠かせないということだ。
日本勢だけによる閉じた関係を志向するようでは、かつて携帯電話で起きた世界の潮流に乗り損ねる「ガラパゴス化」を再現しかねない。半導体やAIといった海外勢が強い分野の力も積極的に取り入れる必要がある。
第二に、社会全体にイノベーションを受け止めることが求められるという点だ。車の開発にソフトを導入する取り組みではトヨタ自動車が先陣を切ってきたが、自動運転などサービス面となると日本は後手に回っている。今ごろライドシェアが議論の的になるなど、米中だけでなく東南アジアと比べても周回遅れの感がある。
経済力の低下に対する国民の危機感はかねて高まっている。一方で、自動車業界には国内で550万人以上の働く人が関わる。国力を左右する巨大産業だ。
世界での競争を視野に未来の自動車産業を育てるためにも、自動車業界だけでなく、国も含めて新たな社会のあり方を国民に問う努力が必要だ。