バンブーズブログ

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米国の銀行破綻はまだ続く その理由と日本への影響


 
エミン・ユルマズの未来観測
#日経マネー連載 #株式投資 #為替・FX
2023/4/17 5:00
取り付け騒ぎの起きたシリコンバレーバンクの店舗に並ぶ人々。ネットバンキングの普及で出金のハードルが下がり、取り付け騒ぎが起きやすくなっているという点も指摘されている(写真:ロイター/アフロ)
3月に米シリコンバレーバンク(SVB)が破綻しました。米国政府の救済策により、金融危機はいったん落ち着いたようにも見えますが、このまま収束するとは思えません。むしろこれからゆっくりと時間をかけて、影響は広がっていくとみています。

今回の銀行破綻は何の前触れもなく唐突に起きたものではなく、米国の銀行株指数は2021年9月から下げ始めていました。21年11月に米連邦準備理事会(FRB)が「インフレは一時的ではない」という見解を初めて示し、今後はインフレ退治のための利上げが行われること、それにより銀行が保有する債券の含み損が大きくなることを市場は織り込み始めました。

利上げは銀行にとって別の問題も生みました。1年物国債金利が5%、2年物国債でも4%なら、預金金利が0.25%程度の銀行に資金が集まる理由はありません。さらにSVB固有の事情ですが、顧客の多くを占めるテックベンチャーの資金調達環境が悪化すると、彼らの資金繰りのために預金が流出するのです。いずれも利上げに起因した、含み損と預金流出という2つの問題が重なったのが、SVB破綻のメカニズムです。

金融システムが「不公平」に

エコノミストのエミン・ユルマズ氏
米国政府は破綻が金融システム全体に波及するのを防ぐため、SVBの預金を全額保護すると発表しました。しかしこの救済措置は、むしろ米国の金融システムにゆがみを残してしまったと思います。

米国の預金保険制度は本来、1口座当たり25万ドルを超えた分を保護しません。今回はそれを曲げて預金全額を保護したわけですが、米連邦預金保険公社FDIC)の資金は米国の預金総額の1%未満。仮に今後も銀行の破綻が相次げば、その全てを保護する力はないのです。イエレン米財務長官も、全ての預金を保護するわけではないという趣旨の発言を行っています。

米国には小規模な地方銀行が多く、金利の高止まりが続く限り、含み損や預金流出というストレスを抱えた銀行は増えます。破綻予備軍は他にもあると思うべきで、今後何カ月もかけて表面化してくる可能性があるのです。

リーマン・ショックの時も、いくつもの銀行がルールを曲げて救済されたのに、米リーマン・ブラザーズは救われないという「不公平」がありました。その過程で、銀行救済への世論の不満が高まったことも背景にあります。今回も、後から破綻した銀行ほど救われない不公平が生じる可能性があり、それは信用力の低い銀行で取り付け騒ぎを誘発し得ます。既に「一番安全な銀行は、政府が全額保証を約束したSVB」という皮肉な状況が発生したのですから。

SVBの破綻は、FRBの金融政策も変えてしまいました。銀行に対して流動性を供給する目的で資産購入を増やしたため、FRBのバランスシート(BS)が久々に拡大したのです。パウエル議長は、この措置は量的緩和QE)とは違う一時的なものと説明していますが、BSが拡大した以上は量的緩和と同じ効果があります。

3月下旬には再びBSが小幅に縮小する場面もあり、今後はまだ不透明ですが、FRBが金融引き締めを行いにくくなったことは間違いありません。「FRBはインフレ退治を諦めて金融システムの安定を選んだ」状況です。

金融政策が緩和的になるなら、株式市場にも追い風に見えますが、やがて再度のインフレの暴走というシナリオが訪れる可能性は高まりました。為替市場では円高・ドル安圧力が生じるでしょう。

米国株指数は一見すると上昇局面ですが、実はAI(人工知能)ブームで沸く米エヌビディア(NVIDIA)など一部の銘柄が指数を押し上げている状態。株式市場全体への楽観論はありません。歴史的にも、FRBが金融緩和に転じた直後は、まだ株価が下げ続ける例の方が多いのです。

日本への危機の波及はあるか

米国では銀行危機の火種が残る状況ですが、日本に波及する可能性はあるでしょうか。私はそれほど心配はいらないと思います。

そもそも一般論としては、金利が上昇すれば貸し出しの利ザヤが拡大するため、銀行の経営にはプラスなのです。米国でそれがマイナスに働いてしまった理由は、利上げが急過ぎたことに尽きます。

1年で5%近い金利上昇スピードでは、それを早期に融資金利に反映させるのは不可能。結果として預金金利を上げられず、預金流出リスクも高まりました。日銀が仮に利上げに向かうとしても、米国のような急激な利上げになるとは思えません。

もちろん、金利上昇で債券の含み損が生じるのは日本の銀行も同じです。とはいえ、預金流出さえ起きなければ、含み損がある債券でも満期まで持つことができます。

気軽に債券に資金を移す米国の預金者と異なり、日本人はそう簡単に預金を引き出しません。というよりも、預金をやめるメリットにまだ気付いていない。そう考えた方がいいかもしれません。

日本でも、破綻時の預金保護には1000万円と利息までという上限があります。ならば、証券口座に入れて公社債投資信託でも買った方が、預金より安全だと言うこともできるのです。すぐに日本人がそんな発想で動くことは考えにくいですが、遠い将来まで今の状況が続くかは分かりません。

足元では銀行危機の影響で日本の長期金利が低下し、日銀の金融政策見直しの必要性がいったん薄れていることもあり、銀行危機の日本への波及リスクは限定的と考えていいと思います。