[社説]環境省は真摯な水俣病対応を
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2024/5/9 19:00
環境省は水俣病対策に真摯に取り組む必要がある(8日、熊本県水俣市で謝罪する伊藤環境相)=共同
環境省として本来果たすべき役割を見失ったといわれても仕方がない非常識な対応である。
熊本県水俣市で1日に開かれた伊藤信太郎環境相と水俣病患者らの懇談で、被害者側の発言時間が予定の3分間を超えたとして、同省の担当者がマイクの音を切って発言を遮った。
5月1日は水俣病の公式確認日である。環境相は毎年この日に水俣市での慰霊式典に出席し、患者団体などと懇談する。担当閣僚が被害者の声に耳を傾ける趣旨の会合なのだ。にもかかわらず、悲痛な思いを述べる発言を一方的に妨げるなど言語道断である。強い抗議が出たのは当然だ。
被害者より伊藤氏の帰京の日程を優先させた形となった担当部署はもちろん、発言を続けてもらうよう促すといった適切な対応をとらなかった同氏の責任は重い。単なる恒例行事のようにとらえていたとすれば問題である。
伊藤氏は8日に水俣市を訪れて直接謝罪した。被害者側からは3分では時間が足りないとの声も出た。無制限に実施するのは難しいとしても、今回の反省に立ち、環境省は建設的な意見交換の方策を検討すべきだ。
同省の前身の環境庁が発足したのは1971年。高度成長を背景に水俣病をはじめ深刻な公害被害が相次ぎ、公害対策の司令塔として産声を上げた。水俣病対応は環境行政の「原点」といえる。
これまで一時金支給などによる政治決着が図られてきたものの、救済の枠組みから漏れている人は多く、法廷闘争が続いている。全面解決には遠いのが実情だ。
被害の全容も分かっていない。2009年施行の水俣病特別措置法が定めた、政府による健康調査も未実施のままだ。
発生から長い時間がたち、風化への懸念も出ている。公害問題の啓発も引き続き重要になる。
環境省が取り組むべき仕事は多い。被害者の声を聞き、救済に向けて何が必要か、初心に立ち返って真摯に考えねばならない。