バンブーズブログ

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[社説]科学力再興への「卓越大学」に


 
 
#社説
2023/4/22 19:00
大学ファンドには東京大など10大学が名のりをあげた
この20年で日本の研究力は衰退した。政府は新たな科学技術政策として10兆円規模の大学ファンドを始める。世界のトップを競う「国際卓越研究大学」を育成し、科学力再興への好機としたい。

東京大や京都大など国立8大学と私立の早稲田大、東京理科大の計10校が新制度に名乗りを上げた。文部科学省などは秋にかけて数校を選出。1校あたり年数百億円の研究費を最長25年、助成する。

10兆円ファンドといってもこの金額が大学に渡るわけではない。国が基金として積み、そのお金を金融市場で運用、出た利益を「卓越大学」に配る。

目標とする年3000億円の運用益を確保するにはリスクも伴い、相当難しい。スタートした22年度上半期に約1800億円の含み損となった。原資の多くは財政投融資で元利金の償還が要る。損失が拡大すれば将来、国民負担になるのではないか。

運用次第で毎年の助成額が変動するのも望ましくない。中長期で研究を支えるお金が不安定だと大学側も困る。運用を担う科学技術振興機構は覚悟して取り組まなければならない。

日本の研究力の衰退は深刻だ。論文の引用回数を指標とする国別ランキングは順位を年々落としてきた。欧米や中国に比べ、国が研究開発に投じる資金の伸びの鈍さが一因とされる。大学ファンドが軌道にのれば約1割の増額となりある程度の効果は期待できる。

大学側も思い切った改革がいる。海外の有力大学に倣って寄付金や民間資金を拡充し「官製マネー」頼みから自立しなければならない。博士課程や若手研究者の積極活用を進めてもらいたい。

社会が渇望するイノベーションを生み出すには、短期志向に陥らず自由な発想を力とする研究の充実もいるだろう。目標を定めたプロジェクト型研究は必ずしも期待した成果を上げてこなかった。大学ファンドが日本の科学力の向上につながるのか。きちんと点検し注視していく必要がある。