2023/4/23 17:01
G7農相会合が閉幕した(23日、宮崎市)
主要7カ国(G7)農相会合は23日に閉幕し、途上国支援を通じて食料安全保障の強化を進めることで一致した。主要な穀物の在庫は5割超が中国に集中し、ロシアは小麦の輸出で2割を占める。中国とロシアが食料供給で途上国への関与を強めれば、G7の影響力が下がることへの懸念がある。
宮崎市で開いた農相会合は22日から2日間の日程で協議した。会合後に採択した閣僚声明は「持続可能な農業」と「生産性向上」、「イノベーションの活用」の3つを掲げ、食料の安定調達・供給を目指す。G7農相で初の行動計画「宮崎アクション」も公表した。
最重要の課題と位置付けたのが食料安保の強化だ。声明にはロシアによるウクライナ侵攻が世界の食料安保に及ぼす影響について「脆弱な途上国に与える悪影響を緩和することが不可欠だ」と明記した。不当な輸出制限をかけるなど「食料を武器化」することへの懸念も表明した。
ウクライナの農業インフラの復旧支援にも取り組む。破壊された灌漑(かんがい)施設、倉庫、食品加工施設などの再建を通じ、「ウクライナの回復と復興を支援する用意がある」とした。小規模農家への資金や種子の提供、生産性向上のためのデジタル技術導入を例示した。
G7の閣僚からはウクライナの穀物輸出が滞っていることをめぐって懸念を示す声が相次いだ。ドイツのエズデミル食料・農業相は「これまでと異なる輸出ルートを獲得しなければならない」と語った。
世界の食料価格はロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに高騰した。国連食糧農業機関(FAO)の食料価格指数(14〜16年=100)は22年3月に過去最高の159.7に達した。足元は126.9で依然として高い水準にある。
G7から見ると、現状は新興国の急速な経済成長が引き金となって08年に発生した食料危機よりも深刻な状況にある。ロシアと中国がともに農業大国であり、世界の食料需給に大きな影響力を持つためだ。
ロシアはウクライナと合わせると世界各国の小麦輸出のうち3割を占める。小麦価格の指標となる米シカゴ市場の先物は22年3月に最高値を付けた。ロシアとベラルーシなどに偏在する肥料原料も調達が不安定になった。
中国は主だった穀物をかき集めている。米農務省(USDA)の推計によると、2022〜23年(穀物年度、期末)の世界の在庫に占める中国の割合はトウモロコシが70%、コメは62%、小麦は52%に達する。過去10年間で20ポイント前後上がった。
もともと中国は14億人分の食料を確保するために、輸入の動きを強めてきた。経済成長に伴い調達力が高まり、世界中の穀物が中国に集まる。「農業強国」を掲げて自国の生産体制も強化している。資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は「厚い在庫を利用して、途上国への影響力を強める可能性がある」と話す。
途上国は人口の伸びに対して食料が足りず、経済力が乏しいために十分な輸入量を確保できない。世界の飢餓人口は途上国を中心に8億人にのぼるとされ、農相会合の声明ではSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる2030年までに飢餓人口をゼロにする目標について「実現は遠ざかっている」とした。