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2023/6/4 19:05
北朝鮮は軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したが、早いうちの再発射を公言している(5月31日)=朝鮮通信・共同
浜田靖一防衛相と韓国の李鐘燮国防相が4日、シンガポールで会談し、韓国海軍が自衛隊機に火器管制レーダーを照射した問題をめぐり再発防止で合意した。当局間の懸案について見解の違いを残しつつも、安全保障協力の強化に向けて歩み寄った点は妥当である。
日本政府は2018年12月、石川県能登半島沖で自衛隊哨戒機が韓国軍駆逐艦から火器管制レーダーを照射されたと発表した。韓国側はその事実を否定し、哨戒機が低空飛行で韓国軍艦を威嚇したと日本側を非難したため双方の主張が平行線をたどっていた。
同年には韓国が国際観艦式で海上自衛隊に旭日旗の掲揚自粛を求め、日本側はこれを拒否して艦艇派遣を見送った。当局間で相互不信が高まり、防衛協力・交流は滞った。米国を交えた3カ国連携にも暗い影を落としただけに、今回の合意は現実的といえる。
危険にさらされた自衛隊には不満が残るだろうが、不正常な状態を放置できないのも確かだ。東アジア情勢の緊迫化によって日米韓3カ国の緊密な協力がかつてなく求められるなかで、最前線を守る当局・部隊間に隙があれば致命傷につながりかねない。
安保協力には信頼関係が不可欠だ。自衛隊と韓国軍が同じ海域で行動するケースもあり得るだけに、近く始める実務者協議では実効性のある再発防止策が求められる。合意をテコに日米韓の共同訓練に弾みをつけ、日韓間の訓練や交流も再開すべきだ。
日米韓3カ国が3日の防衛相会談で、北朝鮮が発射したミサイルの探知情報をリアルタイムで共有する仕組みを早期に運用開始すると合意したのも時宜にかなう。軍事偵察衛星の打ち上げに失敗した北朝鮮はできるだけ早いうちの再発射を公言している。
日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)もすでに正常化した。歴史をめぐる日韓対立が経済や安全保障に波及した深刻な事態は、韓国の政権交代後に次々と解決に向かっている。両政府はこの勢いを様々な分野の協力や交流の拡大につなげる必要がある。
東京電力福島第1原子力発電所の処理水問題や、旭日旗を掲げた海自艦艇が5月末に6年ぶりに韓国に寄港した問題で尹錫悦政権は野党の攻撃にさらされている。日韓関係は両首脳の指導力に負う部分が大きい。大局的な見地に立ったかじ取りを進めてほしい。