バンブーズブログ

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[社説]社会機能を守るため大改革の時だ


 
人手不足に克つ
#社説 #オピニオン
2023/8/11 2:00
 
日本は深刻な担い手不足に直面する
人手不足への悲鳴が全国で強まり、大都市圏でも経済社会活動の制約要因になり始めた。今後の日本は今よりも一段と深刻な担い手の減少に直面する。少子高齢化が進む中で必要な社会機能を維持するため、政府はこの問題を国家の危機と位置づけて多角的な対策を進めるべきだ。

働き盛りの減少響く

顧客の需要はあるのに人手が足りずに事業を続けられない――。帝国データバンクによると、採用難や離職が原因で人材を確保できずに業績が悪化した「人手不足倒産」は2023年1〜6月に全国で110件発生した。前年同期の約1.8倍に上り、通年で過去最多のペースで推移している。

新宿、渋谷など都内の繁華街でも「従業員不足のため、営業を短縮します」といった飲食店の張り紙が目立つようになった。

総務省労働力調査によると、日本の就業者数は女性と高齢者の就業拡大を背景に13年から増加に転じ、19年には6750万人と過去最多になった。新型コロナウイルス禍で20年には6710万人まで落ち込んだものの、足元の23年5月は6745万人とコロナ前の水準をほぼ回復している。

働き手の総数は高水準なのに足元で人手不足感が強まったのは、働き盛りの25〜44歳の就業者が減ったのが原因だ。13年からの約10年間で大阪市の人口を上回る290万人も少なくなっている。

育児中の女性は勤務時間に制約を抱えて働く人が多く、高齢者もフルタイム就業を避ける人が少なくない。75歳以上の後期高齢者に到達した「団塊の世代」が労働市場から退出し始め、高齢者の就業者数も頭打ち傾向にある。若年労働力の目減りをいよいよ補いきれなくなっているのだろう。

人手不足問題が深刻なのは、今の厳しい状況がほんの「入り口」にすぎないということだ。

国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、20年に7509万人だった15〜64歳の生産年齢人口は40年に6213万人まで減る。30年まで当初10年間の減少ペースは年平均で約43万人だが、30年以降は平均で約86万人と倍速で減少していく。

これから10年もたたないうちに毎年、政令指定都市の人口に匹敵する担い手が目減りする時代に突入するということだ。

今までは職場の頑張りや工夫を積み重ねることで足りない人手を補うこともできただろう。だが従来の考え方でこの先の人材難は乗り切れない。日本全体が「人材の無駄遣いをしない」という危機感を共有し、社会・経済システムを再構築していく必要がある。

対策の柱は省人化の徹底だ。足りない人手をロボットや人工知能(AI)で補う発想ではなく、テクノロジーで処理できない仕事だけを人が担う考え方に転換しなければならない。貴重な労働力を充てるべき仕事が何なのか、あらゆる組織が追求すべきだ。

労働力が希少になれば賃金が上がるのが経済の自然な動きだ。人材確保のための賃上げと、それについていけない企業の淘汰は、限られた人材を生産性が高い企業に最適配置していく一つのメカニズムになる。政府はリスキリングや労働市場の改革で円滑な労働移動を支援してほしい。

政策結集する司令塔を

もう一つの柱は外国人労働者の受け入れ拡大だ。日本で働く外国人を歓迎し、生活環境を整える必要がある。労働者として差別しないことはもちろん、教育など子育ての環境も整えて「選ばれる国」にしなければならない。

日本は古代から異邦人を受け入れ、彼らの技術や文化を吸収しながら社会を発展させてきた。これこそが日本らしさであり、人口危機に直面した今こそ、この能力を最大限に発揮するときだ。

こうした社会の大改革を進めるには政府の司令塔機能が要る。省人化の浸透や外国人の生活支援など、省庁が密接に連携して取り組むべき課題が多いためだ。

介護や看護など深刻な人手不足が長年叫ばれながら、有効な対策が打てていない職種もある。産業界で賃上げの動きが加速すると人材難に拍車がかかり、より危機的な状況になりかねない。

予算、税制、規制など政策を結集し、首相のリーダーシップで戦略的な賃上げやタスクシェアなどの聖域なき改革を実現すべきだ。