バンブーズブログ

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[社説]処理水放出へ安全対策と対話に万全期せ


 
 
#社説 #オピニオン
2023/8/23 2:00
 
福島第1原発の処理水海洋放出をめぐる関係閣僚会議で発言する岸田首相(22日、首相官邸
政府は東京電力福島第1原子力発電所にたまり続ける処理水を24日にも海に流すことを決めた。

科学的な安全性や必要性から、海洋放出は妥当だと国際的に支持されていた。漁業者の反対はあるが、福島の復興や廃炉を進めるには政治決断が必要だった。岸田文雄首相の判断を評価したい。

放出は今後30年近く続く。油断せず安全を最優先に作業を進め、万全を期したい。想定外の事態が発生した場合でも、素早く適切に対処できるよう準備をし、情報を広く発信すべきだ。

今後、国民や周辺国の不安が増すかもしれない。政府と東電は軽んじることなく、ていねいに説明と対話を尽くす必要がある。

処理水は大半の放射性物質を取り除き、トリチウムだけが残ったものだ。海水を混ぜて、トリチウムの濃度を国の安全基準の40分の1未満に薄め、原発から1キロほど沖合に放出する。

国際原子力機関IAEA)は7月、国際的な安全基準に合致し、人体や環境への影響は無視できるとの報告書をまとめた。福島第1原発に職員を置き、放出作業が安全に実施されているかを監視する考えだ。政府はIAEAと協力し、進捗や点検の状況を定期的に公表してほしい。

欧州連合EU)や米国、韓国など海洋放出に理解を示す国は増えてきた。9月の東南アジア諸国連合ASEAN)首脳会議や20カ国・地域(G20)首脳会議などの場で、多くの国の理解を得ることも重要だ。

周辺国では、海や水産物への汚染を心配する声がある。ネットメディアでは、誤情報に基づくニュースが散見される。

中国は政治的思惑から、さらなる対日措置を講じるとみられる。政府は毅然とした態度で臨み、科学的な根拠に基づいた対応を求め続けるべきだ。

科学的には安全だと根拠を示しても、不安を抱える人は一定数いる。水産業への風評被害は起こると考え、補償の充実に取り組むべきだ。政府は対策用に設けた800億円の基金だけでなく、別枠で予算措置するという。積極的に活用してほしい。

処理水放出は復興と廃炉への一里塚でしかない。廃炉作業は技術的困難もあり、計画よりも遅れている。この機に、政府は全体像を示しつつ、着実に進める意思表明をすべきではないか。