#社説 #オピニオン
2023/9/15 2:00
食料の安定供給へ農地の保全は最大の課題
これまで一部にとどめていた企業の農地所有を、各地で可能にする制度がスタートした。国内で食料を安定して供給する能力を維持するため、農地の効率的な利用や保全につなげてほしい。
現行の農地制度は、農地の所有に関して2つの制約がある。まず一般企業は原則として農地を取得することができない。さらに農地を所有している農業法人は上場することができない。
例外としてこれまでは国家戦略特区の兵庫県養父市に限り、2つの制約がなかった。9月からは希望する自治体が国に申請し、構造改革特区として認められれば同様の特例を活用できるようになった。農業の担い手が不足していたり、耕作放棄の恐れがあったりすることなどが条件になる。
農業界には「企業は利益が出ないとすぐ撤退する」とし、農地取得に反対する声が根強くある。実際、黒字化のメドが立たずに撤退した企業も少なくない。
それでも対象を広げるべきなのは、現行ルールにのっとり、農地を借りる形で長期にわたって農業を続けている企業もあるからだ。彼らを既存の農家と区別する意味はもはや低下している。
想定されるのは企業が借りている農地の隣の田畑を、地権者が売却したいと望んでいるようなケースだ。この田畑を買えば分散を避けながら農場を広げ、生産効率を高めることができる。
農地の流動化に伴い農業の規模拡大が急速に進む現状を考えれば、農業法人の上場には意味がある。大規模化には機械や施設などの設備投資が必要であり、資本市場から機動的に資金を調達する道を閉ざすべきではない。
日本の耕地面積はピークと比べて約3割減った。高齢農家の引退も加速している。農地の荒廃を防ぐには、広大な農場を管理するノウハウと資金力が要る。
重要なのは農家か企業かに関係なく、農地を荒らしたり、違法に転用したりしていないかを厳しくチェックすることだ。農地を取得する際に国籍を確認する制度が始まったことと併せ、農地の適切な利用を促してほしい。
今後、制度の一段の見直しも議論すべきだ。特区方式では機動的な農地取得や上場が難しい。利用状況や課題を見極めたうえで、一定の実績がある企業や農業法人を対象にさらなる規制緩和を検討する必要がある。