バンブーズブログ

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[社説]創薬力強化へ薬の保険ルールを見直せ


 
 
#社説 #オピニオン
2023/10/16 2:00
 
厚労省は一部の処方薬の自己負担を上げる議論を始めた
医療機関で処方される医薬品の一部について、厚生労働省が患者負担を引き上げる検討を始めた。新薬の開発を後押しする財源を捻出するのが狙いだという。

新型コロナウイルス禍ではワクチンや治療薬の実用化で日本は各国に後れをとった。創薬力を強化するために、患者負担のあり方に限らず、薬の公定価格を決める薬価制度を含めた保険ルール全般を見直し対象にすべきだ。

厚労省社会保障審議会の医療保険部会で薬の患者負担を見直す議論を始めた。割安な後発薬があるのに先発品を選んだ場合、薬価の1〜3割となっている患者負担を増やす案が検討される。ドラッグストアで類似した市販薬が手に入るのに、あえて処方薬を利用する場合も見直し対象になる。

保険適用から長期間が経過し、同様の効能がある後発品もすでに出ている「長期収載品」は、割安な後発品への置き換えを阻害していると指摘される。製薬会社が長期収載品の収益に依存した経営から脱し、新薬開発により力を入れる経済環境をつくるために見直しを求める意見がある。

市販薬に類似品のある薬については、軽度な身体の不調は自分で手当てするセルフメディケーションを進める観点からも、保険給付から除外する案や患者負担を引き上げる案が提起されてきた。

画期的な薬の薬価を引き上げて創薬を後押しするには、保険給付にメリハリをつけて財源を捻出するのが妥当だ。日本発の新薬開発を促すだけでなく、海外の優れた薬を日本に導入するためにも、製薬会社が日本市場でイノベーションの対価をきちんと得られる環境をつくらなければならない。

製造原価が高いバイオ医薬品など画期的新薬の価格は高額になっている。高齢化による薬剤費の膨張を抑えつつ、優れた新薬を保険でカバーするには、小さなリスクには自助で備える考え方を採ることもやむを得ない。大きなリスクにしっかりと備える観点からも患者負担の見直しは必須だ。

薬の費用対効果を見定めて薬価や患者負担に反映させる取り組みも要る。フランスでは薬ごとに医療上の有用性などを評価し、抗がん剤など最も重要な薬は患者負担をゼロにする一方、そうでない薬は評価に応じて段階的に患者負担割合を設定している。こうした海外の取り組みも参考にメリハリのあるルールをつくってほしい。