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2023/10/18 2:00
G20声明はハマスとイスラエルの衝突に言及しなかった(13日、モロッコで記者会見する議長国インドのシタラマン財務相)=ロイター
中東動乱という眼前のリスクを直視せずに、世界経済を議論する第1の枠組みといえるのか。モロッコで開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は7会合ぶりに共同声明を採択したが、イスラム組織ハマスとイスラエルの衝突に何ら言及しなかった。
米欧を中心になお高インフレの圧力が残り、中国経済の減速や途上国の債務負担の増大など世界経済を曇らせる要因は多い。ウクライナ危機に加え、中東での緊張や戦乱が激しくなれば、原油価格や農産物の高騰などでエネルギーや食料の安全保障も脅かす。
ところが、G20には2008年の世界金融危機の時のように協調して困難を克服しようとする機運がない。深刻な機能不全だ。
G20は2022年2月のロシアの侵攻後、侵攻を非難する先進国、ロシアを支持する中国、態度を曖昧にする新興国・途上国といくつもの勢力に割れた。インドが議長国を務めた23年9月のG20首脳会議で、ロシアへの非難を明記しない形の首脳宣言が久しぶりにまとまり、今回も踏襲した。
声明が出たのは前進としても、直近のイスラム組織ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃やその後の戦乱拡大に何ら触れないのは異様ではないか。「世界中の戦争や紛争による甚大な人的被害と悪影響に留意する」との声明は、参加メンバーの意思統一が不可能な世界の現実を如実に示している。
先行する主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁会議は「イスラエルに対するテロ攻撃を断固として非難する」と明記した。一方のG20ではロシアの侵攻で生じた亀裂が一層深まり、中東という新たな地政学リスクの高まりに向き合えないでいる。世界経済の混乱の際に迅速な行動をとる機運も衰えているのではないか。
気候変動による自然災害、新たな感染症など、地球規模での協調が欠かせないテーマが増えている。経済や社会の基盤が弱い途上国が、十分な支援をしない富める国々に不満を募らせれば、世界の分断はさらに極まってしまう。
G20は世界経済の8割以上を占める有力な会議だが、このところは政治や安全保障の要素が入り込み、各国・地域がバラバラな思惑で加わっている印象が濃い。原点に立ち返り、G7や中国、新興国らが経済や金融の安定へ率直な議論を重ね、協力し合う場としての役割を取り戻していくべきだ。