バンブーズブログ

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[社説]この経済対策では将来不安が増すだけだ


 
 
#税・予算 #社説
2023/11/3 2:00
 
閣議決定した総合経済対策について記者会見で説明する岸田首相(2日、首相官邸
岸田文雄政権の迷走の産物という印象が濃い。国民の将来不安はむしろ増すばかりではないか。

政府は総合経済対策を閣議決定した。所得税・住民税の定額減税、住民税非課税世帯向けの給付金、ガソリン価格や電気・ガス料金の抑制策の2024年4月末までの延長などを合わせた規模は17兆円台になる。依然として大盤振る舞いの内容といわざるをえない。

首相は記者会見で「現下の最優先はデフレから脱却し経済を成長経路に乗せることだ」と述べ、政策を総動員して国民の可処分所得を上げると強調した。だが、対策にはタイミングや効果などの面で多くの疑問を禁じ得ない。

典型が首相の唐突な指示で決まった所得税減税だ。22年度までの2年で増えた所得税・住民税の税収約3.5兆円を「国民に適切に還元する」と銘打ち、1人当たり合計4万円を減税する。これまで数年の巨額の経済対策の影響もあり、国の歳入は歳出を大幅に下回る。税収が増えたからと早々に負担軽減に回すのは不適切だ。

しかも、減税の実施は法改正などを経た24年6月だ。好循環へのカギを握る来春の賃上げには間に合わず、タイミングを失する。

住民税が非課税の世帯に1世帯あたり7万円を給付する。納税額が少なく減税の恩恵を十分に受けられない「隙間」の人々にも対策を講じる。煩雑な制度設計や法改正をするほどの意味はあるのか。

物価高対策としての効果も不透明だ。日本経済の需要不足が解消するなか、減税や給付金はインフレ圧力を高める恐れがある。ガソリンや燃料の輸入を増やすような政策も、ドル買いを通じて円安加速による物価高を招きかねない。

対策には賃上げ促進税制の拡充、デジタル行財政改革、宇宙や海洋の技術開発の促進など供給力の強化を狙った措置も盛り込んだ。だが、補正予算による「基金」の創設や増額が不透明な運用につながらないよう節度が必要だ。

首相は昨年末、防衛費増額に伴い「未来の世代への責任」として財源の確保を明言した。その際に決めた増税策を、首相はあっさり先送りすると表明した。一貫しない方針や行動が、政権への不信感を高めているのではないか。

財政や社会保障の持続性を軽視すれば、人々は不安を抱く。首相は減税などの場当たり的な策でなく、中長期の視野で日本の諸課題を克服する戦略を示すべきだ。