バンブーズブログ

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[社説]危機対応で国と地方の隙間埋める一歩に


 
 
#社説 #オピニオン
2023/11/30 19:05
 
コロナ初期のダイヤモンド・プリンセス号の感染対応は手間取った(2020年2月、横浜港)
新型コロナウイルス禍のような危機時には、個別分野の法律に国の権限が規定されていなくても、国が役割を果たすため自治体に関与できるようにする。首相の諮問機関、地方制度調査会は、地方自治法にこうした国の「指示権」を創設する答申案をまとめた。

国民の安全にかかわる事態にもかかわらず、法令に基づく権限がないとして行政が対応をちゅうちょすることがあってはならない。危機対応での国と自治体の隙間を埋める一歩にしたい。

コロナ禍では法令が想定していない事態が起こると、国の役割がはっきりせず、自治体とうまく連携できない事態が頻発した。例えば流行初期のダイヤモンド・プリンセス号への対応は、感染症法上は横浜市に権限があった。しかし多数の患者を各地に振り分ける広域調整などは、国が担った方がスムーズだったといえよう。

地方自治法に新設する国の指示権は、感染症や大規模な災害といった国民の安全に影響する危機に限り、国が適切に役割を果たせるようにするものだ。危機に該当するかの認定は、政府が閣議決定して決めるべきだとした。

地方分権で国と自治体は対等な関係となり、法律や政令に基づかなければ国は自治体に関与できない。地方自治を充実させる観点から、平時のルールとしてこれが重要であるのはいうまでもない。

だが危機対応は自治体だけでは限界があるのは、コロナ禍や東日本大震災の教訓からも明らかだ。国と自治体の連携が求められる危機時は、平時の地方分権とは別のルールがあってよい。

国と地方の関係は明治期以降、時代に応じて集権と分権を繰り返してきた。戦後制定された地方自治法は危機に備える観点が乏しかったが、安全保障環境が厳しくなる昨今、危機に備えて国への集権は強まる傾向にある。

沖縄県は米軍基地建設に反対し、国と訴訟を続けている。政府内には安全保障上の観点から、こうした訴訟手続きを簡略化すべきだとの声もある。危機に備える集権をどこまで広げるか、危機と平時をどう線引きするか。難しい課題であり慎重に考えるべきだ。

憲法地方自治を明記したのは、地方の自主性が高まれば国を挙げた戦争などに向かいにくいとされたためだ。憲法の理念も踏まえ、今回の指示権創設を国と地方のあり方を考える契機にしたい