バンブーズブログ

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[社説]成長と新陳代謝促すグロース市場改革を


 
 
#社説 #オピニオン
2024/2/8 2:00
 
2023年、米国の新規上場企業の初日時価総額は平均で3000億円程度に達した(23年9月、ナスダック市場へ再上場し、セレモニーに臨む英アーム関係者)=AP
東京証券取引所がグロース市場の改革について検討を始めた。同市場はスタートアップ企業の主な上場先だ。売買の厚みを増し資金調達の場としての機能を強化することが新興企業育成に欠かせない。新しい有力成長企業を増やし産業の新陳代謝を促せるよう、効果的な改革を実行してほしい。

課題となっているのが「小粒上場」の多さだ。2018〜22年にグロース市場(22年春以前はマザーズ市場)に新規上場した案件の64%は当初の時価総額が100億円未満で、平均は200億円を下回った。米国の新規上場での平均の10分の1にも満たない。

時価総額が小さいと機関投資家の投資対象になりにくい。売買が薄くなり新株発行による資金調達も難しくなる。実際、新興市場に上場後の10年以内に公募増資を実施する企業は2割にとどまる。成長力不足はグロース市場の株価全体が低迷する大きな要因だ。

本来成長へのステップであるはずの上場がゴールになってしまっている企業が多いことも問題だ。「家業」的な中小企業が事業継承のツールに上場を使う例も多い。ともに小粒のままで成長しない上場企業を増やし、市場の魅力をそいでいる。

東証有識者会議は改革案として、上場目的と成長計画の開示義務の強化、新規上場と上場維持の基準の見直しなどを議論する見込みだ。投資家を軽視した安易な新規上場や怠慢経営を防ぐ効果が見込まれる。厳しくしすぎてスタートアップ投資を冷やさぬよう、うまい仕組みを考えてほしい。

本来、事業を大きく育てるためには何年にもわたって赤字のまま先行投資する必要があり、その間は株式上場には向かない。日本では潜在力を十分生かせる事業基盤を築く前に上場してしまう企業が多いことが、世界にはばたくスタートアップが少ない要因のひとつともいわれる。

改善には取引所による市場の品質の向上とともに、新興企業に投資するベンチャーキャピタル(VC)側の意識改革も必要だ。VCを含む資本市場全体で有力企業を育てるべきだ。

日本のVCはかねて、投資先企業を早く上場させて株を現金化したがる傾向があった。大型資金を投じ、未上場のうちに大きく育てるのが世界のVC大手の標準的な戦略だ。日本でも投資の現場に広がるよう強く期待する。